22部分:第二十二章
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た。これには平太郎も慌てた。
「いやいや」
仮にも魔王というからにはかなりの身分である。その様な者に頭を下げられて恐縮してしまったのだ。
彼も頭を下げた。やがて両者は頭を上げた。
「それでは失礼仕った」
「はい」
最後は礼儀正しく終わった。山本はそのまま居間を出ると庭先に出た。平太郎はそれを見送る。
「いや、見送りは不要」
そう言うが彼は見送った。やはりそれが礼儀だと思ったからである。
「かたじけない」
山本はその心遣いに感じ入った。表情は変わらないが彼のそうした行動が気に入っているようである。
「肝だけではないのだな」
そう言った。彼の人間としての節度も気に入ったのである。
「お主に槌を渡してよかった」
そしてこう言った。それは心からの言葉であった。
彼が庭先に下りるとそこに何やら異形の存在が現われてきた。見れば平太郎のところに来た者もいる。どうやら山本の配下の者達のようだ。
「それではな」
山本は最後にそう言うと化け物達に護られる様にして囲まれた。そして籠の中にゆっくりと入った。
山本が入った籠はそのまま担がれた。そして化け物達の行列の中央に位置し運ばれて行った。
「ううむ」
見れば大名行列そっくりでる。違うのはそれを形作っているのが人ではなく、化け物であるということか。そして化け物達は闇の中に消えていった。彼はそれを最後まで見送っていた。
こうして一月に及ぶ平太郎と化け物達の話は終わった。残ったのは一本の槌だけであった。
彼はそれを大事に蔵の中に閉まった。そしてそれを取り出すことはなかった。
「まことに強い者になりたい」
それが彼の願いであった。
「ならば他の者に頼っていては駄目じゃ」
彼はそう考えていた。だから槌を大事に閉まったのである。
そんな彼であるから化け物に対しても平然としていられたのであろうか。それともそうだからこそ化け物に出会うことができたのか。それは誰にもわからなかった。
だが彼はこの一月の騒動でその名を知られることになった。彼に会いたいという者は列をなしその話に聞き入った。そして武芸者としても名を馳せるようになった。
「これが化け物の褒美かのう」
だが違うと思った。これはまた別だとわかっていた。
彼は自分の力でそれを得たのだ。化け物と正対しそれを受け入れた肝と度量があったからだ。それにより彼は名声を得たのだ。
今も稲生平太郎という名は残っている。そしてその化け物達の話も。主のいなくなった比熊山は今も残っている。そしてあの平太郎が座った岩もその場所に残っている。だが彼等は何も語らない。以前あったことを知りながらそれは決して語らないのである。
山本五郎左衛門の話 完
2004・
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