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山本太郎左衛門の話
17部分:第十七章
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の槍もある。
「これでよし」
 彼は鍵をかけて言った。そしてその場をあとにした。
 その日は夕刻になると急に騒がしくなった。何でも隣の権八が重い病にかかったという。
「まことか」
 隣の家に詳細を聞きに行こうと思った。今の時点では単に騒ぎ声が聞こえるだけである。これでは何が何だか全くわかりはしない。
 居間を出ようとする。だがここであやかしが姿を現わした。
「こんな時にか」
 困ったがこれに対処せねばならない。何と柿が部屋の中に飛んで来た。
「柿!?」
 夏なのに妙なことだと思った。しかもよく見てみると赤々としている。増々わけがわからない。
 だがこれも怪異だと思うと納得がいく。そう思えばどんなことでも納得できるのだがら気が楽といえばそうなる。
 平太郎は居間の真ん中に座り込んだ。そして床に落ちた柿を手にとった。
「どれ」
 そしてそれをかじってみた。見れば本物の柿であった。
「むう」
 不思議である。実に不思議だ。夏なのに柿が食えるとは。
「西瓜でも飛んで来たら不思議なものじゃが」
 味はいい。適度に固く熟れ過ぎてもいない。
「わしの好みじゃな」
 彼は柿は固めが好きである。熟れ過ぎて柔らかくなったものは好まない。
「皮も固くなるし汁が多過ぎる。あれだけは駄目じゃ」
 酒は好きだがこうした果物も嫌いではない。この日は酒ではなく柿を楽しむことにした。
「とりあえず権八殿は明日でよいかのう」
 隣ではまだ騒ぎが聞こえてくる。だがこれも妙なことに思えてきたのだ。
 その理由は簡単であった。騒いでいる声がどれも聞きなれぬものばかりであったからだ。
「あれもあやかしの仕業か」
 そう思えてきた。すると急に出て行く気は消えたのだ。
 満腹になるとあとは拾い集めザルの中に入れた。そして溜め込んだ。
 見ればかなりの数が集まった。これだけで当分食うのには困りそうにもない位であった。
「他の者にも分けてやるか」

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