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山本太郎左衛門の話
12部分:第十二章
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い。特に害はありませんから」
「はあ」
 上田は彼に言われるままに膝を下ろした。そして座り込んだ。
「まあ一杯どうですか」
 平太郎はそんな彼に酒を勧めた。
「しかし」
 だが上田は乗り気ではなかった。化け物が気になって仕方がないのだ。
「放っておいても大丈夫ですか」
「ええ」
 あからさまに不安そうな上田に対して平太郎は落ち着いたものであった。
「気を張る必要は少しはありますがね。けれど見たところ今日のは何もして来ないでしょう」
「そうですか」
「まあ心配なら壁にもたれかかって休まれることですな」
「壁にですか」
「ええ、こうやって」
 丁度酒も切れた。平太郎は壁にもたれかかってみせた。
「こうして休むといざという時に対処し易いですし。刀を持っていれば安心でしょう」
「はあ」
 平太郎を見ても何だか落ち着かなかった。だが上田は彼がこれ程自然に対応しているのが信じられなかった。
「ではお休みなさい」
 平太郎はそう言うと眠りに入った。暫くするとすうすうと寝息を立てはじめた。
 だが上田は違った。まだ目の前を飛び笑いかけてくる輪が気になって仕方がないのだ。
「大丈夫なのか」
 そう思い心配でならなかった。とても寝られたものではなかった。
 まんじりともせず彼等に注意を払い続けた。そして遂に朝を迎えた。
 平太郎は鶏の鳴き声と共に目を覚ました。それと同時に輪は全て消えていた。
「ふうう」
 彼はゆっくりと目を開けた。ごく自然に朝を迎えた感じであった。
「おお、お早うございます」
 そして上田に声をかけた。実に血色のいい顔であった。
「ええ」
 それに対し上田は憔悴しきったものであった。彼は結局一睡もできなかったのだ。
「おや、眠れませんでしたか」
「はい」
 上田は力ない声で答えた。
「昨日のあれがずっと飛んでいましたので」
「そうでしょうね」
 平太郎に憔悴したところはなかった。実によく眠れたという感じであった。
「こんなのが毎日ですか」
「はい。お払いはされなかったのですか?」
「しようとしましたが」
「それで」
 見れば懐の札はそっくりそのままあった。使わなかったらしい。
「何の効果もありませんでした。どうやら私の知らない妖怪のようです」
「そうですか。その札は何だったのですか」
「狐狸のものと生霊、死霊の為のものでした」
「妖怪のものはなかったのですね」
「それはこれで対処するつもりでした」
 そう言って刀を見せた。
「あれではとても切れるものではありません。どうしていいやら」
「そうでしょうなあ」
 平太郎は何処か他人事のように答えた。
「とても切れるものではありませんから」
「ええ、確かにそうでした」
 彼はもう話すだけで限界のようであった。疲
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