第四話
I
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た。
鈴野夜は何だかんだ言っても、ここの生活が好きなのかも知れない。
だが、鈴野夜を古くから知る釘宮にとって、彼が当たり前の日常など望めないことを知っている。だからこそ、釘宮はこの店で二人を働かせる“日常"を作ったのだ。
それは幻なのかも知れない。ただの自己満足かも知れない。
しかし、釘宮は遣らずにはいられなかった。いずれ必ず別れが来ることを知っていたから…。
「まぁ君、早く戻って!」
そんな感慨に浸る暇もなく、メフィストがバタバタと来てそう言った。
「分かった。直ぐに行く。」
苦笑混じりにそう言うと、釘宮は事務所を出て店を見ると、成る程…二十人ほど客が入っていた。これがまたカップルばかりで、鈴野夜は何事も無かった様に接客していたが、釘宮は些か心中でこう思った。
- 暇人どもめっ! -
だがその中に、一人だけポツンと浮いた人物がいた。
それは老いた女性で、髪を結い上げて和服を着こなしている。その一角だけがこう…何と言うか、店の雰囲気とアンバランスなのだ。それも…“あの席"である二人掛けの窓側の席…。
「メフィスト、あのお婆さんは?」
釘宮は食器を下げてきたメフィストにそう問い掛けると、メフィストは顔を顰めて返した。
「まぁ君…あんな枯れたのが好み…」
そこまで言って、メフィストはしまったと後悔した。釘宮の目が光ったからだ…。が、もう遅かった。
「まぁ君…痛いよ。冗談だってば…。」
「なら宜しい。で、あのお婆さんはいつからここに?」
「ついさっきだよ。何かの雑誌で見たことあるけど…確かどこぞの資産家の婆さんだよ。なんでこんな辺鄙な店に来たんだか…」
そう言ってメフィストは、再び己れの愚かさを悔やんだ。今度も瞬殺だった。
「…痛い…。」
「ま、そうだろうな。人の店を辺鄙呼ばわりするとは。まぁいい、さっさと仕事しろ。」
「酷いよ…まぁ君…。」
涙目になりつつメフィストは仕事に戻ったが、どうもその老婆が気になって仕方無い。どうやら珈琲とショートケーキをオーダーしたようだし、たまたま来店した普通の客と思い、メフィストは厨房に入って洗い物を始めたのだった。
一時間程すると、あの老婆がレジへとやってきた。釘宮はやはり気になるも普通に対応したが、帰り際に老婆が不意に釘宮へと問い掛けた。
「貴方はこちらの方?」
「はい、この店のオーナーです。」
「あら、そうだったの。生まれもこちら?」
「はい。ここではありませんが、少し離れた所で。」
釘宮は訝しく思った。こんなことを聞くなんて、普通ではありえない。それも“あの席"に座っていたのだから、どうも嫌な予感がしてならなかった。
「では、“願叶師"というものを聞いたことはありませんか?」
その老婆の問いに、釘宮は些か面食らった。思ってい
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