暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
幕間  〜幸せを探すツバサ〜
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のせいだ。バカなことばかり考える彼に悪態が出てくる。
 詠とて分かっている。自分の浅はかな欲求なのだ。彼から、徐晃隊に向けるような笑顔を向けて欲しいと思うのは。雛里でさえそんな笑顔は向けて貰えない。
 ただ、本来はそんな欲求を抱かなくてもいい。
 三人の中で気付いているのは雛里だけ。より多く彼と触れてきたから、それぞれにいろいろな笑顔を向けると、彼女は知っている。
 詠と姉と弟のようなやり取りをする時の彼は、詠にだけしかその時の笑顔を向けない。
 月と穏やかに街を散策する時の彼は、月にだけしか緩い空気に浸り切った微笑みを向けない。
 雛里には……言わずもがな。

 何も言わずに、彼女は秋斗の手を握った。
 驚いた彼は彼女を一寸見るも、もはやクセになってしまった苦笑を一つ。

「クク……ひなりんには敵わないなぁ」

 彼がこの言葉をいう時で、嬉しさがにじみ出ているのは雛里に対してだけ。
 何故だか咎める気も霧散してしまい、詠はまあいいけどと言ってそっぽを向いた。
 そんな彼女の様子が可愛くて、月はクスクスと小さく笑った。

「詠ちゃん、私達も手を繋ごうよ」
「ぅ……わ、わかったわよ」

 二人ずつで並んで歩く。街を行く四人は皆に笑顔を向けられて、四人でも楽しそうに談笑しながら歩いて行った。
 穏やかな一日はまだ半分も過ぎていない。




 †



 一つの露店が目に留まり、三人はピタリと脚を止めた。
 最初に止まったのは雛里、続いて二人も、その店に熱の籠った視線を向けていた。
 行儀は悪いが、どうせなら食べ歩きをしようと桃まんを齧りながら歩いていた彼は不思議そうに彼女達の方を振り向いた。

「どうした? おー……すげぇな、これ」

 彼女達の視線に気付いた秋斗は、ゆっくりと歩み寄って行き、その商品達を吟味していく。其処にあったのは、美しく磨き上げられた銀細工であった。

「いらっしゃい」
「調子はどうよ?」
「あがったりさ。太客みぃんな死んじまったらしいから。ま、露店で売るもんじゃねぇんだがこの街は安全だし、娘娘ってぇ店があるから立ち寄る金持ちがぼちぼち買ってくれらぁな」

 ジトリ、と店主は彼を睨んだ。秋斗が“何”であるかに気付いたのだ。ほんの少しの憎しみの視線に、秋斗もどういう意味か理解する。
 ぶしつけな態度は稼ぎ処を奪われた結果から。店主は、袁家で儲けていた商人で間違いなかった。
 自分が為したことで少なからず被害を受けるモノがいる。分かっていたことだが、その事実に少しだけ胸が痛む。しかしそれよりも、堂々と新しい利を得に来た商人の在り方に称賛の吐息を一つ落とした。

「強かなことで。一流の商売人ってわけだ」
「言うだけタダの言葉を頂いても腹は膨れないんでね
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