幕間 〜幸せを探すツバサ〜
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カを戻すって仕事が待ってるんだから」
「うん、うんっ!」
綺麗な微笑みを浮かべて、月は元気に声を出した。涙がきらきらと光って美しいその表情がどのようなモノかは、詠だけが心に刻み込む。
――月……あんたって、やっぱり秋斗と似てるのね。
彼女の涙はきっと哀しみ。ずっと隣に居ても秋斗に選んで貰えなくて、心が流した悲哀の涙。
二人を想っているのは間違いない。けれど月は自分の恋が一番に届かない事の悲哀その吐き出し方が分からない。
だからせめてと、詠はそれをうれし涙だと言って聞かせた。まだ恋は終わっていないと思わせたくて。もしかしたら自分もと……一番になれずともいいと期待する淡い心もあったから。
眠っている彼の顔を見ながら、少しだけ彼女は思うことを口に出したくなった。
「ねぇ、月。ボクさ……こいつのこと……」
「……詠ちゃんも?」
まだ言っていない恋心を、半身のような彼女に告げる。彼女はそれを分かった上で、詠も、と言った。
「うん。こいつってバカだけど、ボクの方がバカになっちゃったみたい」
「ふふ……一緒だねっ」
子供のような寝顔を見つめながら、二人の恋する乙女は一歩だけ進んだ。
二人共が、これからこの恋心を大切にしていこうと実感した、優しい穏やかな朝だった。
†
戦が終われば日常が其処にある。街の民は血生臭い戦場のことなど知らないが、赴いていた者達にとっては全くの別物。
いつも通りに今日も今日とて変わり映えのない毎日を過ごすはずの民達ではあるが、この昼下がりは少しばかり違った。
街を歩いているのは、おめかしをした少女が三人と、仕事のときとなんら変わらない黒づくめの冴えない男。彼の隣には月だけが侍っていたはずで、新しく二人が加わった事に疑問を持つものが大多数。月と秋斗の、まるで恋仲か兄妹のような仲睦まじさに和やかな気分になっていたはずが、女の子を三人も侍らせていればさすがに苦笑を隠せない。
そんな民の視線の意味を分かってか分からずか、秋斗はため息を零すことなく発展し始めている街並みを笑顔で歩いていた。
女の子とのデートである。ため息を零すのは拙い。いくらやっぱりというような生暖かい視線を向けられようと、其処は気にしていないというように見せて耐えるのが紳士のマナーであろう。
これが春蘭達のような将なら、仕事の付き合いだと人々も思うだろうが……彼女達は見た目が幼い。噂と相まって彼を見る目は自然と悪い方に向く。
特に月は、いつもの侍女服では無く可愛らしく着飾っているのだ。これをプライベートな男女の逢瀬だと思わずしてどうする、と。
「さて、ゆっくり寝て皆で朝飯作って食ってたら昼下がりになっちまったわけだが……どうしようかね」
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