幕間 〜幸せを探すツバサ〜
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自分でも驚くことだが、秋斗は久しぶりに良く眠れた。
失われた記憶が関係しているのだろう。他人に起こされるまで気付かない程に熟睡することなど、今の秋斗が目覚めてからは無かったのだ。
乱世のことを毎日考えれば寝る間さえ勿体ない。記憶が無い不安と焦燥は眠気を追い遣る。確かに、現代で残業ばかりの毎日を送っていたので少々の寝不足など慣れていたが、それでも異常な程に働きづめではあった。
「お、おはようごじゃいましゅっ」
目覚めはおずおずと億劫な声音で掛けられた挨拶によってだった。
ゆっくりと目を開けて現状を確認、柔らかいモノに両側を挟まれている事に驚愕と疑問を宿すも、そういえば昨日は四人で寝たんだったと気付いてどうにか飛び起きず、首を横に向けるだけで済んだ。
目が合うと、あわわと呟いた雛里は急いで顔を彼の胸に埋めた。恥ずかしさが込み上げるのも女の子であれば詮無きこと。
「ん、おはようひなりん。あ、えーりんもおはよう。すまん、本気で寝ちまってたらしい」
「案外疲れが溜まってたんでしょ」
いつもなら先に起きているはず、と詠は付け足し、失言だったと口を噤んだ。別に比べられても秋斗は気にしないが、彼女としては気にするらしい。
机にでも向かって仕事をしていたり、朝だぞと声を掛けたりと、間違っても誰かが先に起きるまで寝過ごすようなことは無かった。
コホン、と詠は咳払いを一つ。一応、それぞれ衣服が乱れていないか確認はしているらしく、秋斗が見る限り昨日の夜のまま変わりない。
身体を起こしている詠とは対照的に、未だ彼の横で添い寝しているモノは、二人。
「月、あんたもいつまでも固まってないで起きなさい」
「へ、へう……」
不思議に思って隣を見た。其処にいるのは、うるうると見つめる子犬のような少女だった。先に寝てしまった月はまさか彼の隣で寝ているとは思わなかったのだ。
朝起きて見れば彼に抱きついていたわけで、素っ頓狂な声を上げるよりも固まってしまった。記憶を反芻しても何が起こったか分かるわけが無い。
何より彼女を混乱させた理由は、顔が近いこと。跳ねる鼓動を抑え付けながら、誰にも気付かれないようにちらちらと覗き見て、そしてやはり動くに動けない。
そのまま、ぐるぐると回る頭を抱えて悶もんと過ごして今に至る。
「おはよう、ゆえゆえ」
「あ……おはようございます」
恥ずかしいから目を逸らしながら、彼女は朝の挨拶を口にする。随分と穏やかな朝に感じられた。
枕と首の間に伸ばしていた腕を抜き取った秋斗は、ゆっくりと上半身を起こしてから伸びを一つ。ただ、やはり他人に起こされては眠いらしく、大きなあくびが出た。
――なんだろ、こんなゆっくり寝たの久しぶりだからかも……マジで眠い。
華琳の命
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