幕間 〜雛に秋恋、詠は月へと〜
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に。
他者が支えたから強かったのではない。彼は皆を想うから強く成れた。それだけが彼の力だった。
だから、と思う。
――初めから人間を弱いと決めつけてた私達は、傲慢に過ぎる。
優位に立っているから言える言葉で、それは見下しと言うモノだ。
弱るときもあろう。絶望するときもあろう。それでも結局立つのは自分自身だけで、人間は“一人で決めて”生きるしかない。変われるのは自分で、ほんの少し切片を貰うだけ。
誰かと出会えたから強くなれるのでもなくて、それでもと踏ん張れるのが人間、だからこそ、成長という伸び代を誰もが持っている。
――出会った時の私でさえ、彼は強いと認めてくれた。やっぱりこの人は……変わらない人。
初めの出会いから彼は彼女に教えていた。自分が変わろうと足掻き乗り越えようともがくから強いのだと。
そして、雛里のように変わろうとする心も、秋斗や華琳のように変わらない事を選択するのも、それ即ち人の強さ。
暖かい温もりを思い出して、彼女の心は幸せに満たされた。胸に埋めた瞳から涙が滲んだことに誰も気付かない。雛里本人でさえ。
――“あなた”に出会えて、本当に良かったです。
優しく頭を撫でてくれる手は大きくて、昔の彼と同じ手つき。暖かくて、心地よくて、幸せで……ドクンと心臓が跳ね打った。
鼓動が早鐘を打つのはいつ以来だろうか。彼が居たあの時から、こんな気持ちになった事は無い。
彼女はコレを知っている。甘い甘いあの時と同じく、この焦燥感ともどかしさと幸福感は変わらない。
彼女はまた……恋に落ちた。
もやもやしたモノが湧くのは、きっと今も愛しい彼のことを想っているから。秋斗を別人だと思いたいから。
記憶が無いから別人だと頭で振り切ろうとしても、やはり秋斗は秋斗だったから、もうどうしようもない。いつでも変わらない大バカなその男に惚れてしまった時点で負けであろう。
彼女が惹かれたのは秋斗の強さ、彼女が愛しく想ったのは他者のことばかり考える自分勝手な優しさ。彼女が一人の人としても女としても隣を歩きたいと思えたのは、絶対に曲がらない一人で歩けるその芯の強さ故に。
成り立ちも在り方も黒麒麟と同じなのだから、彼女が恋に落ちないわけが無く。
軽い女かもしれない、そんなことを考えて嫌気が増す。こればかりは仕方ない。愛しいモノが記憶を失うなど、そうある事態では無いのだから。
それに、彼女が二回も好きになったのは彼だからこそ。他の誰でも、きっとこうはならなかった。
「あわわ……」
せめて誤魔化す為にと、彼女は振り向いて詠をぎゅうと抱きしめた。
「む、すまん。頭を撫でるクセは治さねぇとな」
雛里の心は読み取れず、いつも詠に叱られている事を思い出
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