暁 〜小説投稿サイト〜
ウンムシ
1部分:第一章
[2/3]

[1] [9] 最後 最初 [2]次話
これは」
「物凄い方が来られたものよ」
 島の者達はそんな為朝を見て驚くばかりであった。何時しか彼はここでもその武芸を謳われるようになっていた。
「若しかするとこの方ならば」
「果たしてくれるやも」
 そのうえでこう囁き合うのであった。そうして為朝のところに集まって訴えるのであった。
「化け物をか」
 巨大な身体に筋骨隆々の肉体をしている。精悍で雄々しい顔の眉は見事なまでに吊り上がっている。二の腕はあくまで太く長い。その身体を武士の服で覆っている。それが源為朝であった。島の者達はその彼に対して訴えていたのである。
「はい。実はこの島には得体の知れぬ化け物がおりまして」
「皆困っているのです」
「そうであったか」
 ここに来て間も無くだったのでそれは知らなかった。為朝は今それをはじめて知ったのであった。
「化け物がか。してその化け物の名は何というか」
「ウンムシといいます」
 島の者の一人がこう答えた。
「ウンムシか」
「はい、普段は海におりまして」
 彼等は為朝に対して語りはじめた。
「わし等が漁に出ますと海から出て船を沈めてしまいます」
「そうして船に乗っている者を喰らうてしまうのです」
「性質の悪い化け物じゃな」
 為朝はそれを聞いて顔を顰めさせる。剛毅で一直線な性格の彼としてはそれを聞いて許せる筈がなかった。もうそのウンムシという化け物を退治することを決めていた。
「しかも何とか逃げても追い掛けてきて島まで来て襲ってきます」
「それでもう漁には出られないのです」
「そういうことであったか」
 為朝は腕を組んだまたその話を聞いていた。だが最後まで聞き終えるとここで言うのであった。
「よし、そのウンムシとやらはわしが倒そう」
「まことですか」
「そなた等が困っているのをそのまま見ては置けぬ」
 これは彼の侠気と正義感故の言葉であった。
「この弓と刀で何であろうが倒して見せようぞ」
「有り難い」
「それでは御願いします」
「うむ。それではだ」
 ここまで話したうえで島の者達に対して問う。
「そのウンムシは何処にいるのか」
「ウンムシですか」
「左様、そ奴がいるところまで案内してくれ」
 こう言うのであった。
「さすれば退治しよう。頼むぞ」
「わかりました、それでは」
「我々が案内致しましょう」
 こうして彼は島の者達が操る船に乗って海に出た。海は静かで空は晴れ荒れる気配は微塵もない。為朝はその静かな海を眺めながら船の先頭に立っていた。動き易いように鎧兜は身に着けず刀と弓を持っているだけであった。
 彼は前を見据えたままであった。そうして島の者達に対して言うのだった。
「奇麗な海だな」
「はい」
「全くです」
 島の者達も彼の言葉に応える。
「ですがこの海も」

[1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ