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第一章
エディプス
「これでいい」
彼がこう言ってまずしたことは。
己の指をその両目に突き刺した。忽ち濁った血が飛び出る。
「なっ、王よ」
「何故この様な」
「私には何かを見る資格はない」
驚く周りの者達に対して告げた。最早彼の目からは血がとめどなく流れるばかりであった。
エディプスは今己の両目を潰した。そのうえで周りの者達にまた告げた。
「先の王ライオスを殺したのは私だ」
「ですがそれは」
「止むを得なくでは」
「だが私が殺した」
このことをあえて告げるのだった。
「そして私は母であるイオカステを妻としてしまった」
「それもまた」
「仕方ないことでは」
「仕方なくはない」
エディプスは周りの者達の声を打ち消した。
「私が罪を犯したことは事実だ。その私がどうして冥府に旅立った時に死んだ父と母の顔を見ればいいのか」
そのライオスとイオカステのことである。
「だからこそ私はこの目を潰したのだ。そして」
「そして?」
「このテーバイを去る」
自らが王であるこのテーバイを去るというのだ。
「罪を犯した私には王である資格はないからだ」
「そんな、王よ」
「それは」
「ならぬ。罪人は罰せられなければならない」
エディプスは周りの者達の言葉を退けるのだった。
「だからだ。私は去ろう」
こう告げてテーバイを後にするのだった。だがその彼について来た二人の少女がいた。
「御父様」
「せめて私達が」
「その声は」
目が見えなくなったエディプスは耳で判断した。その声の主は。
「アンティゴネ、それにイスメーネか」
「はい」
「私達です」
それぞれ赤い髪と黒い髪の娘達だった。どちらも整い優しい顔をしている。
「目が見えなくてどうして歩けましょう」
「ですから私達が御父様の目になります」
「ならぬ」
だがエディプスは娘達のその申し出を断ろうとした。
「それはならぬ」
「何故ですか?」
「それは」
「私は償えぬ罪を犯した」
己のことをまず娘達に告げたのだった。
「その私の傍にいてはならん」
「いえ、それでもです」
「御父様は私達の御父様です。ですから」
娘達も引かない。強い声であくまで言うのだった。
「何があっても離れません」
「御父様を御護りします」
「この私をか」
エディプスはこの時わかったのだった。二人の自分への愛の深さとその慈しみの心が。それを感じてはそれ以上はとても言えなかった。
「そうか」
「宜しいですね」
「それで」
「うむ」
二人の言葉にこくりと頷いた。
「済まない」
「それでは。参りましょう」
「何処にでも」
こうしてエディプスは娘達に護られながら放浪の旅に出た
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