暁 〜小説投稿サイト〜
とあるβテスター、奮闘する
つぐない
とあるβテスター、宣言する
[6/16]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
重苦しく、硬い面持ちで二人の会話に聞き入るプレイヤー達の姿が、事態の深刻さを物語っている。
無理もない。なにせ今回の会議は、議題が議題だ。否が応でもそういった雰囲気になってしまうのは仕方のないことだろう。
こうして集められた僕たちの前で行われているのは、迷宮区の攻略状況に関する情報公開でも、ボスモンスターを攻略するための意見交換でもない。近頃オレンジプレイヤーへの襲撃を繰り返している、一人のプレイヤー───《黒の剣士》への攻略組全体としての身の振り方を決めるための議論だ。

「手を打つと言うが、具体的にはどうするんだ? 現場に居合わせた人間の制止にも、奴はまるで聞く耳を持たなかったと聞いたが?」
「……説得できるのであれば、それに越したことはありません。ですが……お恥ずかしいことに、これは私どもの落ち度なのですが、既に我が《ユニオン》の下部構成員から外部のプレイヤーへ、《黒の剣士》にまつわる情報が流出しているとの報告を受けています。オレンジ専門のPKKだと思われていた《黒の剣士》が、本当はグリーンをも襲うPKだったなどという話が広まれば、まず真っ先にこちらに白羽の矢が立つでしょう。我々としても街の治安維持を第一に掲げている以上、住人からの声を無視することはできません」
「つまり……街の住人が騒ぎ出す前に、奴を捕縛なり討伐なりしなきゃならんわけだな。というより、そちらとしても最初からそのつもりなんだろう? 相手は形振り構わずに復讐しようとしている奴だ、説得なんぞハナから選択肢に含まれちゃいない……違うか?」
「……、そういうことになります。本来であれば、そこまでする必要はないのですが……。それこそ───」
と、そこまで口にしたところで。
この会議の進行役を務める痩せぎすの男───《ユニオン》の作戦参謀であるオリヴィエという名のプレイヤーは、狐のような糸目でちらりと僕の顔を見た。
これから彼が言おうとしていることは大体想像がつく。彼もそれを察しているから、こうして僕を気遣うような視線を向けてくるのだろう。
ここは会議の場なのだから、僕個人に遠慮することはない───口でそう言うかわりに、僕は彼の目を見ながら小さく頷いてみせた。
彼も頷き返し、ひとつ咳払いをしてから、話を続ける。

「──それこそ《投刃》という前例もあります。一頃騒がれてはいても、実際に被害に遭った方がいなければ、やがて住人からの関心は薄れて噂そのものが自然消滅します。少なくとも、《投刃》に関してはそうでした」
《投刃》という言葉が出た途端に、何人かがこちらに忌々しげな視線を送ってくるのが感じられた。中には聞こえよがしに舌打ちする者までいる。
身に覚えのある視線、見覚えのある顔。彼らは第1層のボス攻略戦に居合わせていたメンバーなのだから、僕が既視感を覚えるのも当然とい
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ