彼らの平穏、彼らの想い
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やんややんやと騒ぐ声。大爆笑して杯を酌み交わし、赤い顔を綻ばせて皆は一様に笑顔を向ける。
激動の戦いを生き抜いた男達ではあれど、日常に於いてはそこいらの民となんら変わらない。
徐晃隊――――今は鳳統隊だが――――と呼ばれる彼らは、自分達で作った料理に舌鼓を打ちつつ、昔と変わらない子供のような姿でその時を過ごしていた。
そんな中で一際湧き立つ場所が、一つ。
「ゆえゆえ――――っ! 結婚してくれぇ――――っ!」
「っ!」
「おいこらてめぇ! 抜け駆けしてんじゃねぇぞ!? 俺と結婚してくださいお願いします!」
「へうっ!」
「がはは! 想いが足りねぇよ想いが! 御大将を負かした時に結婚してくれ! これなら受けてくれるだろう!?」
どうだ、と男達が白銀の少女を見た。
「へ、へうぅ〜〜〜〜〜」
熱くて男くさい愛の叫びを幾多も受けて、月は顔を真っ赤にしながら目をぐるぐると回していた。
そんな彼らのバカらしさに見かねて、遠くで飲んでいたはずなのにいつの間にか近くに駆けてくる影が、一つ。
「ちょ、う、し、に、乗るな――――っ!」
誰かが言った。アレは鳥だと。
月の側に昔居た小さな少女は、宙を舞ってバッタ怪人の如きキックをするのが得意だったのだが……眼鏡を掛けた深緑の髪の乙女もその少女の如く飛び上がり、彼らのうちの一人に手痛い蹴りをお見舞いした。
惚れ惚れするような軌跡である。放物線を描かずに、上に跳んだのに斜めに落ちるという物理法則を無視したその動きは、見る者を魅了してやまない。
「ありがとうございま―――――すっ!」
絶叫を上げながら吹き飛んでいく表情は幸福に満たされて。その男は月派でありながら詠派にもなってしまった稀有な男だった。
「この変態共がっ!」
鋭い眼光で腰に手を当てて仁王立ち。そして彼女は、彼らに歯を剥いて思ったまま罵倒を口にする。
ただ、彼らがそんな言葉で折れるなどと思わない方がいい。生粋のバカしか集まっていないこの部隊では、彼女のその態度はいつも逆効果であった。
「えーりんのその蔑みを待っていたぁ!」
「もっとくれ! もっと罵ってくれ!」
「その罵り、その視線、ああ、堪らねぇ! 俺は一生えーりん派って決めてんだ! 愛してるぜえーりん!」
「うぁぅっ……き、気持ち悪いのよクソバカぁ!」
「げふぅっ!」
「ぐはぁっ!」
「うげぇっ!」
もう彼女も将にしたらいいんじゃないかな、と誰かが思った。
こと月が絡んだこういったふざけた場所で、それも彼らに対してだけは、詠は何故か機敏に過ぎる動きを見せるのだ。
黄金の右手。彼女の平手を秋斗はそう呼ぶ。見えない、避けきれない、吹き飛ばされると三拍子揃った彼女の伝家の宝刀とかなん
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