彼らの平穏、彼らの想い
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斗に対して、想いのたけを力と共にぶつけてみたかった。ただ、それだけなのだ。
「なぁ、徐公明……俺は御大将と……一緒になっちまった……」
大きな喪失がその部隊長の心を変えた。
叩きつけられた絶望は、子供のように憧れて止まなかった英雄が居ないからより大きく強く。
凡人の指標たる片腕も居ない。彼の心を分かってやれるモノは、本当に少ない。
グイ、と袖で涙を拭って、彼の襟に縋った。
「あんたが作った九番隊には、絶対負けねぇぞ? だけど……渇いて仕方ねぇんだよ……」
足りない、足りない。そう彼は言う。憧れた部隊で、誇りに思っている。誰にも負けたくないと意地もある。
「俺は家族を守りたい。愛する嫁と子供と幸せに暮らしたい。おっさんになってから娘の連れてきた男をブッ飛ばしてやりたい。腰が曲がったら嫁と茶ぁ飲みながらのんびりと過ごしたい。
……でもそれ以上に、例え嫁と子を悲しませようと、俺の命を使い果たしてでも、このクソッタレな、戦を繰り返してばっかりの世界を変えてやりてぇんだっ」
想いは重なる。憧れて憧れて、そうあれかしと願ってきたから。
誰よりも近くに居てくれた英雄は、己が幸せを考えられない程に壊れていたから。
幾多もの楽しい時間を繰り返しながら、幾多もの哀しい別離を繰り返しながら、絆を繋いだ者達の想いを繋いで来たから。
「生きたいさ! もっともっと笑顔が見てぇ! 皆とバカやりながら幸せに暮らしてぇよ!
でもっ、自分の幸せなんかよりもこの世界の平穏が欲しいっ! 命一つ賭けられなくて何が乱世だ! そこいらのガキだって誰かの幸せの為に命張るってのに!」
男はただの部隊長。しかし想いだけは、いつでも黒麒麟の身体に相応しく。
賊に襲われた村の子供でさえ守る為に命を賭けて武器を持つのに、自分達がそうなれずに作れる平穏などないのだと。
いつしか兵士達が集っていた。秋斗と部隊長の声を聞いて、見つめる瞳には熱が宿っていた。
誰も声は出さない。代表と認めている第三の部隊長には、他の誰もが敵わない故に。
「徐公明、あんたは御大将と同じで、俺らと同じだ。バカみてぇに命を投げ捨てるのが皆の平穏の為で、それがあんたの力になってる。自分を大事にしろなんて俺らにゃ言えねぇ。それだけでっけぇ願いだって分かってる」
秋斗は男の視線を真っ直ぐに受け止める。ため息を零した。いつも通りに自然体で。
「……お前らはホントに……黒麒麟なんだろうなぁ」
「へへ……俺達を誰だと思っていやがる。あんたが追い駆けてる御大将と戦ってきた黒麒麟の身体なんだぜ」
不敵な笑みも、吐き出せた想いから安息に染まる。自分が伝えておきたかった言葉は、秋斗の心に届けられたから。
雛里も、詠も、月も……彼らの渇望の
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