彼らの平穏、彼らの想い
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時に振る。見切った秋斗は、近づいて長剣で鍔迫り合いに持ち込んだ。
難なく吹き飛ばすことが出来る力の差があった。兵士としては確かに強いが、それでも猪々子や春蘭……否、秋蘭にさえ劣る自力の差があった。
「……っ……だけどよ、いつか一人で倒せるように訓練してるが、俺らがなれる戦場での限界は副長の場所だ。それ以上を求めるなら……俺らは黒麒麟じゃいられない。軍神や燕人、昇龍のように黒麒麟と舞うことは出来ないんだよ」
泣きそうな声だった。
自分の男としての価値を高めたくて強くなろうと努力を繰り返し、それが出来ないと男は言う。
何を読み取ったのか、何に気付いたのか……秋斗は彼の言いたいことを理解した。
「……部隊で戦うには我が強くなり過ぎるってか?」
「ああ。黒麒麟の身体は自分を律しなけりゃなれねぇ。俺らが使ってる戦術は単純なもんじゃねぇんだ。合わせる奴等と力量差があり過ぎるとどっちもの足を引っ張っちまうし、我が出過ぎると御大将の邪魔をしちまう」
昔の黒麒麟の戦では。そう付け足した。
「戦場では近付けなかったんだよ。大地に脚をついて本気で戦う御大将の周りには副長でさえな。自分の戦い方だから一番分かってるだろ?」
俊足の縮地を駆使して変則的な動きで兵士を狩る。長すぎる長剣と長時間の戦闘を考慮した不可測の動きは味方さえ殺す可能性が高く、徐晃隊の兵士達と連携を取るのは不可能で効率も悪い。ギリギリの線で見極めて合わせあうから戦えるその状況はいいのか悪いのか、昔の秋斗でさえ悩んでいた。
真正面から兵士と一緒に突撃。騎馬で難なく敵の部隊を切り拓く……そんなことは、歩兵部隊の徐晃隊では為し得なくて、一人でも多くを生き残らせる最効率の戦場は作れない。
如何に個人が強くなっても、彼らの戦い方ではそれが全てでは無いのだ。徐晃隊が黒麒麟として戦うとするならば。
そして、彼らが思うのはもう一つ。
「んでよ、例え俺らが御大将と同じように成り上がれたとしても、同じように馬に乗って兵士を扱って後ろで指示なんざしたくねぇ。この手で泥だらけになって戦わないと気が済まねぇ。徐晃隊の、小隊分離の特異戦術で、バカ共と一緒に戦わねぇと、もう……我慢できないんだ」
ギシリ、と歯を噛みならした。両の手の力を抜き、鍔迫り合いを止めた。トン、と剣を握った拳で自身の胸を叩いた。
ゆっくりと、彼は頬を吊り上げ笑う。その目から一筋の涙を零して。
「此処が……喚くんでさ。
戦わせてくれ、救わせてくれ、世界を変えさせてくれって……どうしようもないくらいに」
するりと、男は剣と槍を落とした。力で届かないのは分かっていた。今の力を知りたくて戦ってみても、やはり絶対の壁を感じてしまう。
そんな中で、彼は自分の主と違う心を持つ秋
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