彼らの平穏、彼らの想い
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現れたのは第三の部隊長だった。記憶を失おうが相も変わらず無自覚な女たらしなんだろう、とその男は予想を付ける。
雛里の真っ赤に染まった顔を見れば分かるが、食事を作る時点で言っているのだ。
「そうですか。相変わらず女たらしなバカ野郎ってか」
「女の子が可愛い服着てたら褒めるだろ?」
「口に出して言う奴ってのは少ねぇのさ。特にあんたも御大将も、鳳統様以外にも言うから性質悪い」
「……聞かなかったことにしとく」
女絡みの話は秋斗にとって苦手なところ。いつも通り逃げて、彼はカレーのおかわりをよそる為にすっと手を出した。
「おかわりだろ? 皿くれ」
ただ、予想に反して部隊長は動かない。じっと彼の瞳を見つめて、幾分後にぐびりと酒を飲んだ。
「いや、メシはもういい。鳳統様、徐公明借りてもいいですか?」
「えっ、あ、ど、どうじょ、あわわ……どうぞ」
――童女はあんたの方ですがね。っと、御大将みたいなこと考えてる場合じゃねぇや。
噛み噛みで発された言葉に苦笑が漏れる。きっと彼ならそんなことを考えるに違いないと思ったから。
「……りょーかい。ひなりん、此処任せる」
「は、はひ、いってらっしゃい」
まだ噛んだ影響が残っているのか、彼女は俯き加減にふりふりと手を振った。
借りた練兵場の端の方に歩いて行く二人の背を追い駆けることはせず、雛里はしばらくそのままじっと見つめたままであった。
†
武器を持ってくれとその男は彼に頼んだ。
秋斗が手に持ったのは刃を潰した彼専用の訓練用長剣。昔と同じその装備を見れば、部隊長の頭には幾重にも重ねた訓練の記憶が甦る。
「聞いたよ。お前さんが一番古くて、一番徐晃隊の中で強いってな」
第三部隊長はまだ年若い。結婚年齢の低いこの時代であるから、妻がいると言っても秋斗よりも幾歳だけ下だった。
副長に追随するように鍛え上げてきた力は、血反吐を吐く練兵と個人訓練で身につけた己が生きた証明。それでも、イカサマで強くなっている彼には敵わない。
重心を落とした。左足を斜め前に。そして右手に槍を、左手に剣を。
秋斗は肩に剣を担ぐ。随分と慣れ親しんだ動きで、身体が反応するままに軽く。
見間違うはずも無い黒麒麟の姿。記憶が無いことを除けば、戦闘能力は黒麒麟と同じ。
「御大将とまともに数合だけでも一騎打ち出来るようになったのは副長だけだ。俺らと違う武器を持ったのはそれが出来るようになってから……あの斬馬刀は副長が少しでも御大将の負担を減らす為に選んだ、敵将を落馬させる為の武器だったんだ」
ただ彼の為に。そう願っていた副長の想いは徐晃隊の中でも飛び抜けている。脚がもげようが手を切り離されよ
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