第十五章 忘却の夢迷宮
第二話 踊るもの、躍らせるもの
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ロマリア、ガリア両軍が膠着状態に陥ってから三日が過ぎた。その間、カルカソンヌの北方を流れるリネン川を挟み睨み合う両軍の間でまともな戦闘は一度も起きてはいなかった。ただ、時折両軍が砲火の代わりに飛び交わしている罵詈雑言で頭に血が上った貴族の幾人かが、両軍から丁度百メートル程先にあるリネン川の中腹に位置した中洲で決闘紛いの争いを起こすだけであった。
実際の所、この決闘紛いはそれなりに重要なものであった。未だ本格的な戦闘が未だ起きていない現状で、唯一両軍の兵士がぶつかり合うこの決闘紛いに勝つことは互いの軍の士気に直結するものであるからだ。この決闘のルールはそう複雑なものではない。決闘に勝利すればその場に残り自軍の旗を立て、負ければそれぞれの陣営が用意した小舟に回収されるというものである。この決闘、どちらの陣営も自軍の旗を立たせんと負けるたびにどちらの陣営も直ぐに挑戦者を出すため、この三日の間でそれこそ三桁に届く程の戦闘が行われていた。
そして今、中洲にはロマリア軍の軍旗が風にはためいている。
その隣に立つのは、赤い外套を同じく風にたなびかせながら何処か憮然とした表情をして溜め息を吐く男。
「はぁ……何でさ」
―――衛宮士郎であった。
「……相棒」
「何だ?」
腰に佩いたデルフリンガーが何処か怖々とした様子で話しかけるが、話しかけられた士郎は腕を組んだまま視線も向けず上の空の様子である。
「いや、何か随分疲れてるなと思ってな。結構な数を相手したが、相棒なら疲れるようなもんじゃないだろ?」
「確かに体力的には全く問題はない。疲れているように見えるのは、ただ、そう、何と言うか……」
一体何度目かのため息か自分でも忘れた士郎は、自分の気分と反比例して上機嫌になっていく一団をジロリと一瞥した。
「―――うふふふふ……金貨が一枚〜二枚〜三枚〜…………」
「姐さんっ! 見て下せぇこっちには結構な宝石がっ!」
「アハハハハハハははっ! 笑いが止まらないわねっ!!」
「これはもう余裕で城が建つじゃないか?」
「おっと、今度はどうやら伯爵が来るみたいだよ。う〜ん、二千、いやもっといけるかな?」
これまで士郎が打ち倒してきたガリア軍の貴族たちから得た、釈放のための身代金を数えて狂喜乱舞する水精霊騎士隊の隊員たちと、その中心となって士郎にこの決闘を強制した張本人たる凛が高笑いを上げていた。
「……自分の不甲斐なさと言うか」
「そうか、相棒も大変だな」
デルフリンガーの同情を多分に含んだ言葉に、士郎は不覚にも涙が出そうになるのを堪えながら、ギムリから受け取った袋に入っていた宝石を検分している凛に顔を向けた。
「凛っ! 流石にもういいだろ! 十分稼いだ筈だぞ!!」
「馬鹿言いなさいっ!
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