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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十五話 参謀長との面会
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しえずに大敗しました。
一方で〈皇国〉は海運貿易が発達しているからこそ、大量の回船を使用した素早い転進が可能でした――それが無ければ北領鎮台は全滅していたでしょう。」
「簡潔だね」

「此処まで見事な大敗を喫したら ぐう 以上の言葉はこれしか出ません。」
 官僚的な口調で答えるが、豊久の脳裏ではいかに当たり障りのない情報で組み立てられたか、猛スピードで検証されている。
「此処まで賞賛されると嬉しくなるな。貴官の様な現実主義者ならば尚更だ。」

「嫌な現実と戦うのが潰走した軍の将校が成すべき仕事です。取り分け天狼会戦からの一ヶ月は特にそうでした」
 
「あの場で降伏したのも、かな?」
「――そうですね」
 ――もう少し早かったら――いや、そんな考えは無意味だ。
「答えたくないなら構わない。
だが、君の属する民族は勇武を重んじ、誇り高く敗北より死を選ぶと聞いていた。
子供の寝物語にしては過激だが、私は子供の頃から東方の戦士の伝説を聞いて夜も眠らず興奮したものだった」
 ――俺の先祖は兵糧や飼葉の消耗で頭を痛めてた頃だろうな。
要らぬ半畳を打ちたくなる衝動を堪え、豊久が答える。
「その性根は今も残っていますよ。ですが時は移ろいました。
ええ、古き良き一騎打ちは廃れ、戦では相手を眼前にする刃より何者が放ったかも知れずに鉛玉で人は死にます。
どこの誰に討ちとられたかも解らず将校は死ぬ。そうした戦場に適応しなければそれは将ではなく、ただの蛮族です。
私は――その様な考えより任務を果たした事に誇りを感じます。」
 ――歴史と伝統は銃と砲に駆逐されつつある。良き事か悪い事かは分らないが、その先も薄々解っている。この世界もそうなるのだろうか。
剣と銃だけではどうしようもない時代が、英雄が消え去る時代が到来するのだろうか?

「だから、降伏したと?」

「ええ、任務を完遂した以上熟練兵の価値を考えるなら非効率的で。無駄な死は害悪にしかなりません。
任務を達成し友軍は内地へ転進する事に貢献できた、それで十分誇りに思います。――まぁこれはあくまで私個人の考えですが、兵の命は能率的に使うべきでしょう」

「成程・・・確かに現実的だな。
尤も君の祖国でも、私の祖国でも多数派とは言えないだろうが。」
理は認めるが、といった様子でメレンティンは云った。
「お年寄りは前線に出ませんからね、まぁ確かにこの地の産まれならまた話は違ったでしょうが」
「違うのかね?」
「私の部隊は〈帝国〉との関係が悪化した後に集成し、増派された兵団に属していました。
兵は〈帝国〉で云う公民になりますね、志願兵が大半です。
まぁ本来なら私は五将家の駒城に仕える家なので、領地である駒州に置かれる鎮台に配属される事が多いですね。もし、内地でお目にか
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