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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十五話 参謀長との面会
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佐は好意的な微笑を浮かべて皇国語で挨拶される。
 一介の少佐に鎮定軍参謀長がここまで配慮を見せる必要があるとは思えない、個人的な何かがあるのだろうか、ともう一度返礼しながら考える。
 ――まぁ、いい。今は型通りに話を進めよう。
 好意を示してくれたのならば、悪い方に転がるかどうかは、こちら次第だろうと腹をくくる。
「大佐殿がお望みならば鋭剣をお預け致します。」
「貴官は〈大協約〉の遵守を誓われますか?」
「誓います」
 内心、苦いものを飲み込む
 ――そして、それを前提とした博打を打ち、兵藤少尉達を殺したんだ。
「ならば私も〈帝国〉将校としての名誉にかけて貴官の将校たる権利を擁護しよう。」
 そして、両手を広げて見せた。
「よくぞ、いらした!」
 芝居がかった言い方である。豊久の持病とも見える分析癖が頭をもたげた。
 ――ふむ、これは何を意味しているのだろう?敵意がないことの証明、それにこの大佐殿と俺だけ、とでも意識させる為か?いや、これは真意を隠す為と言うより趣味だろう、うん、趣味だ。同好の士の匂いがするもの。
「ロトミストロフ君、ご苦労様。下がってくれ給え」
案内役の少年を下がらせたメレンティンは、来客の俘虜へ席を薦める。
「失礼いたします」
 賓客が腰かけると参謀長は面白そうに口を開いた。
「さて、君に何を差し上げようか?黒茶か、あるいはもっと強い物もあるが」
「自分は下戸ですので黒茶をお願いします、大佐殿。〈帝国〉産の酒はどうも強過ぎて」
「この場では君は私の客人なのだからそう固くならずともよいのだがね」
 微笑し、従兵が部屋を出るのを見計らい、細巻を取り出すと豊久にも渡した。

 ――上物だな、笹嶋さんの時もそうだった、面倒な駆け引きには何故か上物の細巻がもれなくついてくる、相手が大物だからか?
 細巻の香りを楽しみながら祖父の言葉を思い出す。
 ――功を焦って急いてはいけない、居丈高に構えても無駄だ。要らぬ力は込めずに、ぬらりと相手の懐を覗き込め。
 将家としての振る舞いを叩き込んだ際に馬堂家当主から授かった言葉だ。
「少佐、君は私の真意を図りかねているのだろうが、」
 メレンティン大佐は紫煙をくゆらしながら言葉を続ける。
「詰まる所、私が君を呼んだのは純粋な敬意の表明なのだ。」
「これは随分と過分な御言葉を賜ったものですな。
少尉達は兎も角、私は後方に居たもので、残念ながらご期待に添えるとは思えませんが」
 ――嘘は言っていない様だが、それだけでは無いな。
茶器で口元を隠しながら観察する。
「どうにも信じきれない。と言った様だね」
 苦笑を浮かべてメレンティン大佐が話す。
「私の様な俘虜の身に、一個軍の参謀長殿がわざわざその様な事をなさるとは、意外に思いました。」
 豊久
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