第五章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「それは」
「それはとは」
「お断りしたいのですが」
「それは一体」
「私は月に帰りたくありません」
俯いてだが、それでもだ。
姫は確かな声でだ、女に言うのだった。
「この国に留まりたいです」
「この国に」
「そうです、この日本という国にです」
「姫、しかし」
女は姫の言葉を受けて眉を曇らせて言葉を返した。
「それはです」
「ならないというのですね」
「そうです、姫は月の国の姫です」
それ故にというのだ。
「ですから」
「帰らねばならないと」
「私にはお父様とお母様がいます」
翁と老婆の方を振り向いての言葉だ。
「そしてです」
「そしてなのですか」
「そうです、私を心から想ってくれている方もおられます」
今度は帝に顔を向けて言うのだった。
「ですから」
「この国に留まられ」
「人生を過ごしたいと思います」
「そう言われるのですか」
「そうです」
絶対にというのだ。
「私はそうしたいのです」
「どうしてもですか」
女は姫のその目を見て問い返した。
「そう仰るのですか」
「そうです」
姫は今度はだ、顔を上げてだった。そうしてから女に答えた。
「私はこの国に留まります」
「ですが月には」
その国に、というのだ。
「姫の本当のです」
「お父様とお母様が、というのですね」
「おられます、ご兄弟の方も家臣の方々も」
「だからというのですね」
「お戻り下さい」
女も言うのだった。
「是非」
「どうしてもですか」
「そうです、お願いします」
「いえ、私のお父様とお母様はです」
まだ言う姫だった。
「こちらにおられますので」
「こちらの翁と老婆だと」
「ですから」
「どうしてもですか」
「はい、私はこの国に留まります」
「想ってくれる人もいるので」
「この国に。いさせて下さい」
姫の声は切実なものになっていた、その声には心があった。
「どうか」
「月に戻られたらどうされますか」
ここでだ、女は。
言葉を一旦止めてからだ、姫のその目を見つつ問うた。
「その時は」
「考えられません」
これが姫の返答だった。
「私の全てはこの国にあるのですから」
「月にはないと」
「例えお父様とお母様がおられても」
本当の両親がだ、その国にいてもというのだ。
「私の心はここにあるのですから」
「では」
「月からこの国を見続けます」
「そうするというのですか」
「そうです、何としても」
こう言ってだ、姫はその手を女に出さずに足も前に出さなかった。そうしてその場に留まっていた。その全く動かない姫を見てだ。
女もだ、目を一瞬伏せてからだ。こう姫に言った。
「では」
「では、とは」
「そのお言葉。月の帝とお
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ