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極楽トンボ
第六章
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「それはね」
「けれどですね」
「そう、それでもね」
 また言うのだった。
「キャロルが前に言ってたけれど」
「すぐにですね」
「笑顔になるか」
「それが出来ないと」
「気分転換してね」
 そうして、というのだ。
「すぐに気を取り直すことね」
「落ち込んでもですね」
「そうしたらいいから」
 これがマリアの提案だった。
「人生長いわよ、これから落ち込むことはね」
「それこそ数えきれない位ありますね」
「だからね」
「そうした時にですね」
「例え疲れる性格でもね」
 普段は極めて明るいが何かあればすぐに落ち込む性格でも、というのだ。
「それでもよ」
「笑顔を作るか」
「気分転換してね」
「明るくなるんですね」
「それがいいから」
「わかりました、じゃあそうしていきます」
「そういうことでね」
 マリアはキャロルに微笑んで告げた、そうして彼女に落ち込んだ時のことを教えたのだった。この時から数年後。
 キャロルは意中の相手と巡り会い結婚して家庭を持ってだった。娘も生まれた。その娘がこけて泣いている時にだ。
 キャロルは自分の娘の手を取ってだ、微笑んでこう言った。
「笑って」
「笑って?」
「そう、笑って」
 こう言うのだった。
「そうして」
「笑えばいいの」
「そうよ」
 これが娘への言葉だった。
「こうした時はね」
「笑えば痛くならないの?」
「少しずつね。それにね」
「それに?」
「泣かなくなるから」
 今はそうであってもというのだ。
「だからね」
「笑えばいいのね」
「どうしても笑えないと」
 その時についてもだ、キャロルは娘に笑顔で言った。
「飴をあげるから」
「お母さんがくれるの」
「それを舐めて笑ってね」
「うん、じゃあ」
 娘は母の言葉を受けてだ、それでだった。
 痛みを我慢してだ、そしてだった。
 にこりと笑ってだ、こう言ったのだった。
「こうすればいいのね」
「そうよ、こうした時こそね」
「笑うのね」
「そうすればいいのよ」
 キャロルはあえて屈んで娘と同じ目線になって話していた。そしてその言葉を受けてだった。
 娘は笑顔のままでいる様にした、するとだった。
「何か少しずつ」
「痛くなくなったでしょ」
「うん、不思議だね」
「笑えばいいの」
 また言うキャロルだった。
「わかってくれたわね」
「うん、よくね」
 娘も笑顔で応える、そしてだった。
 キャロルは懐からそっとバンドエイドを出して娘の擦りむいた膝にそれを張った。そうしてもらった娘はキャロルにさらに言った。
「有り難う、お母さん」
「もっといい笑顔になったわね」
 キャロスは自分に感謝の言葉を言った娘の顔を見てまた言った。
「その笑顔でいてね」

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