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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十七話 布石の一謀、布石の一撃
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かな緑一色の丘陵と侘しげな林。それらを縫うように切り開かれた街道、そしてそれらの中に点々とした黒い塊――重傷の者、道中で事切れたものが捨て置かれた死体である――ただそれだけしかいないように見えた

 丘の上にわずかにうごめく影が見えた。
「――敵影は未だ見えず、か」
 望遠鏡を下ろし、青年将校が呟いた。
 鉄虎大隊唯一の捜索剣虎兵中隊である第四中隊、その戦務幕僚である西田中尉だ。
濃緑を基調とした迷彩服は他兵科の制式軍装である黒衣のそれと異なり、その存在を誇示する役目とは真逆の物だ。
 彼の横に寝そべった獣は黄色と黒の体毛で逞しい体躯を覆っており、この緑色の世界では一般的な獣と兵隊の服装を入れ替えたかのようだ。
「わかっているさ、隕鉄」
 彼女だけではない捜索剣虎兵が侍らせる“美女”達は皆、獲物が近づいていること、狩りの時間が近いことを相方に知らせている。
 聯隊戦闘導術中隊からもたらされた導術観測情報と照らし合わせ、おそらくは増強中隊程度の敵が近づいているのだと中隊長達は判断している。

「この丘陵を利用し、警戒線を構築します。我々の猫も反応しています」
 西田とは別の方面を探っていた小隊長が言った。
「任せる、この軍装を過信しないように、交代で休止をとっておけ」

「はい、戦務幕僚殿」
 頷き、西田は丘と街道から僅かに離れた林の中に向かう。
 数名の将校と下士官たちが寄り集まっている。この場が中隊本部ということになっている。
「――中隊戦務、戻りました。
現在のところ前方には何も発見されておりませんが猫達は既に狩りが近いと」

「そうか――大隊本部にも伝えておこう、」
 中隊長は素早くうなずき、無表情で眼前の歴戦の将校に尋ねた。
「一撃で仕留めるしかない、そうだな?」

「はい、中隊長殿。可能ならば白兵もせず、射撃だけで仕留めるくらいの気概でいくべきです。
この側道は狭く、大軍の運用はできません。主力部隊は内王道上に集結している筈です。
側道の掃除が目的ならばどのみち大兵力を投入する事はありません」

「行軍の効率を考えるなら聯隊程度が精々か――」

「逃がさず、早急に刈り取るしかありません。我々は剣虎兵なのですから」





 騎兵と猟兵――そして中央には騎兵砲が二門。総計はおおよそ250から300。
こちらの倍程度だ。敵がこちらに気づいていないならどうとでもなる。
「中隊規模だが、騎兵砲に猟兵が随行。敗残兵狩りのつもりか」
 望遠鏡を下ろし、西田は苦い顔でつぶやいた。
「そして威力偵察」
 上原軍曹が頷く。

「残置分隊から伝達、後続部隊はなし」
 本部付導術兵が意識を集中させて離れた相手の言葉を伝えた。

「中隊長殿」
 戦務幕僚の言葉に中隊長
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