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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十七話 布石の一謀、布石の一撃
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「懐かしいな、ハッ!いよいよもって懐かしいとも!」

「渡河まで何かしら手を打つ必要があります、時間を稼がねば――」
大辺がそっと汗を拭きながら言うとそれにこたえるかのようにこの場にはいないはずの男が言った

「その通りだ、なんとしても第三軍は虎城に合流せねばならん。駒城と守原だけでは守り切れんよ」

「ゲ」
 豊久が顔をひきつらせた。

「ゲ?」
 彼を幼年学校でしごいた元主任教官かつ現集成第三軍戦務主任参謀たる荻名中佐だ

「ゲゲゲのゲっと」
 飄げた口調で豊久は笑った。
「朝を寝床ぐうぐうと迎えたのはもう何日前か……」

「何を訳の分からん事を言っとるんだ貴様」
 荻名は呆れたようにため息をついた。
「――まぁいい。軍司令部としての方針を伝えに来た。入るぞ」

 ぬるい水を呷り、細巻の煙が天幕の中を漂う。
「聯隊長。軍司令部および主力部隊は可及的速やかに渡河を行い
そのまま蔵原を目指す。そして再編成を行い虎城防衛線に合流しより強化な防衛体制を構築する。
これは集成第三軍の全般方針として西津閣下が発令したものである」

「――でしょうな」
 豊久は肩をすくめた。これは当たり前のことだ。ほかにすべきことは何もない。

「この為、軍主力は徹底して敵追撃部隊との交戦を避け、戦力の保全を最優先とする。
で、あるからには敵の追撃を防ぐ部隊が必要だ
それも高度な単隊戦闘能力を持った部隊とその運用に長けた指揮官による部隊がな」

「――でしょうな」
 豊久は同じ言葉を違った声色で繰り返し、皮肉気に口元を歪めた。
「またわが社を御愛顧いただけるわけですな、戦務主任参謀殿」

「よほどの自信があると見えるな、第十四聯隊長殿」

「自信?えぇそれはまぁ夜通しの戦闘から龍口湾の転進支援。
我々は幾度も御仕事をいただいていますから」

 教え子の皮肉を鼻で笑い、荻名は卓上の地図を指で叩いた。

「貴様の指揮下にある独立混成第四十四聯隊は編成された後衛戦闘隊を率い三十里程度、進出。敵の先鋒部隊を叩き、敵の追撃部隊をかく乱せよ」

「進出、進出、どの方角にです?あちらですかね?」
 豊久は亢龍川の流れる先を指した。西に向かう、即ち虎城山地である。やったぜ。
「あっちだ」
 荻名は<帝国>軍の草刈り場となっている東を指す。
 豊久は紫煙を口から吐き出し、細巻を灰皿に押しつぶした。
「言ってみただけですよ」

「作戦の概要は決まっている」
 そういうと荻名は書類鞄から一枚の地図を取り出し、それを卓上に広げた。
 そこには第三軍後衛戦闘隊に迫る騎兵連隊と猟兵一個旅団の観測情報が書かれている。
「いいか。追撃部隊は増強1個師団相当だが第二軍を叩くために分散している。
第三軍主
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