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入れ替わった男の、ダンジョン挑戦記
誕生、前代未聞の冒険者
第六話
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「口ではそう言って後ろからばっさり、は嫌ですから。」

きっぱり拒否する兎耳。やはり、このネックレスが疫病神だったか。

「さあ、行くよ!」
「なるべく痛い目にあわないようにします。」

猫耳と兎耳が構える。猫耳は素手、兎耳は弓だ。

「…ホット・ペッパー!!」

もうどれだけ言葉を重ねようと、信じてはもらえまい。彼女達が何度も似た経験をしているのであれば、僕が油断させようとしていると受け取ったのだろう。ならば、手加減してわざと負けて、ネックレスを明け渡そう。どうせ僕には無用の長物だし。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「take off!!」

威勢の良い僕の掛け声で、グリーヴのから炎が噴射し、空に飛び出す。飛び込んできた猫耳の攻撃をいなし、狙うは援護の兎耳!

…イヤイヤイヤ、狙っちゃ駄目だ。負けなきゃいけないんだから。狙いを兎耳の隣の空間にずらし、身を翻し、拳を付き出しながら急降下。拳の衝突で地面が砕けたが、兎耳は無傷。

その兎耳は弓を放って来る。…おい、何故一射が無数に増えるんだ。

放たれた矢は、僕に向かって数百発の矢になり、殺到する。再び空に飛び出して逃げると、僕よりはるかに高く跳躍した猫耳が、両足を揃えて僕の腹部を踏みつけた。

「必殺!『キヤットストライク』!」

踏みつけた両足から真紅のエネルギーが生じ、そのまま僕を地面に縫い付けた。その威力は、僕が砕いた地面が可愛く思えるほどで、僕の体は、深くめり込んでいた。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「風竜の泪は…。無事だよ!」
「いつも無茶し過ぎです。今回だって…!」
「ゴメン!でもこの人…。」
「詮索は止しましょう。長居は無用です。」
「そう、だね!じゃあ、『怪盗ラッツ、撤収』!」

閃光の後に静寂が訪れる。テレビは大騒ぎ、怪盗ラッツの活躍を大々的に報じるだろう、と考えながら、

「あらよっと。」

一端後転するかのように体を動かし、その反動で一気に起き上がる。猫耳の踏みつけが地面に届く寸前に、僕はホット・ペッパーの噴射で威力を殺していた。めり込んでいたのは、ちょっとした演出、リアリティーを出すためだ。まんまと引っ掛かってくれた獣娘達は演技中の僕からネックレスを取り、去っていった。

彼女達は欲しいものが手に入り、僕は厄介払いが出来た。お互い大満足の結果じゃないか。

「さて戻るか。」

茶番を演じるのは疲れます。役者じゃないしね。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「英司!」
「兄さん?」

怪盗との暴力的取引を終えて戻ると、兄である和人がいた。用事ですか?

「帰ろう英司。みんな待ってる。」
「いやぁ、僕は勘当されたし。」
「本気でするわけないだろう。さあ、帰るよ。」


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