第三話
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。」
そう言うや、彼はチェンバロの前から角谷へと歩み寄った。角谷に近付く彼は、金色の髪をした紳士だった。顔は鈴野夜そっくりの外人…何がどうなっているのか角谷には理解出来なかった。
「さて、貴方の願いは何ですか?」
角谷の目の前まで来ると、ロレは静かにそう問った。その問いにフッと我に返ると、角谷は懇願するようにロレへと言った。
「妻と息子が、どうして死ななくてはならなかったのかが知りたい。」
「知ってどうする?死せる者はもう戻らない。」
「分かってる…分かっているんだ。ただ、金や権力に殺されたのなら…」
「そうだとしたら?」
ロレは目を細めてそう返すと、角谷はロレを見上げて怒りを露にこう言った。
「彼らに報いを…!」
その言葉には狂気が混じっていた。ただ憎いと言うだけでなく、ある種の呪いに近しいものだった。
そんな角谷が、ロレは憐れでならなかった。
「承知した。お前の願い、叶えよう。これは契約だ。」
ロレがそう言うと、角谷は顔を伏せて返した。
「だが、私には貴方に支払える財はない…。一体何を代価にすれば…。」
「では、これを頂こう。」
ロレがそう言って角谷に見せたものは、一本の古ぼけたブロックフレーテ…リコーダーだった。それはメープル材で作られたもので美しく装飾が施してあるが、さして値打ちのあるものではない。
「それは…妻のリコーダー…。しかし…それで良いのか?それは妻が練習用に使っていたものだ。代価であれば、もっと高価なものも…。」
角谷は不思議そうに問う。
確かに、彼女のコレクションには黄楊やローズウッドなど、高価なものや歴史的価値の高いものもあった。
だがそんな角谷に、ロレはこう答えた。
「これは君と彼女が出会った時に使用していたものだ。これには金銭の価値は無くとも、記憶という価値がある。」
そう言われた角谷は、淋しそうな笑みを見せて返した。
「…分かった。」
「契約は成立だ。」
ロレがそう言い放つと、途端に角谷の意識は遠退き、深い闇の安らぎへとその意識を落としていったのだった。
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