第三話
V
[2/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
」
その答えを聞くや、角谷は明白に眉間へと皺を寄せ、その瞳の奥には怒りを顕わにした。が…それはほんの一瞬で掻き消され、また俯いて囁く様に返した。
「…そう…ですね…。」
「誰か大切な方を亡くされたのですね…?」
「ええ…妻と一人息子を…一年程前に…。」
鈴野夜はそれを聞くや、彼に聞こえぬ様に浅い溜め息を洩らした。
― やはり…この男は…。 ―
「失礼ですが、名前をお伺いしても?」
「…ええ…。角谷…角谷翔と言います。」
「私は鈴野夜雄弥と申します。もし宜しければ、どうかお話下さい。他人に話すことで、少しは心が軽くなると申しますし。」
「いや…人に話す様なことでは…。」
角谷はそうやんわりと言ったが、その目は明らかに「触れてくれるな。」と言っていた。
それを感じ取った鈴野夜は、彼が既にその心を崩壊させ始めていることを悟ったのだった。
彼は妻と息子の死に、文字通り…“取り憑かれいる"のだ。
普通は死を受け止め、亡き者を偲びつつも前進するのが人間だ。確かにそれには時間が掛かり、人によっては何年も引き摺る。
だが、彼の場合…死に執着しているのだ。一年経た今でさえ、彼は家族の死の真っ直中にある。まるで愛しい思い出を胸の内に仕舞っておく如く、彼は負の思いすら吐き出すことなく仕舞い込んでしまっているのだ。
― 何が原因だ…? ―
鈴野夜はそれを聞き出さねば解決しないと感じたが、その反面、今の彼に何を言っても届かないと分かっていた。
では…どうするか…?
「そうだ…。角谷さん、こんな都市伝説をご存知ですか?」
「は?君、私をからかっているのか!?」
「いえ、違います。ただ…この話しは、真に信じた者、心に深い傷を負った者、虐げられた者にしか理解出来ず、会うことも叶わない…そう聞いています。」
「馬鹿馬鹿しい!私は帰らせて頂く!」
角谷はそう怒鳴り声を上げるや、直ぐに席を立った。
だが、鈴野夜はそんな彼の耳へと囁いた。
「“メフィストの杖"を覚えていて下さい。」
「…?」
角谷は困惑しながらもレジへと向かったが、そこで釘宮はやれやれと言った風に彼の会計を無料にし、深々と頭を下げて謝罪してから見送ったのだった。
その後、直ぐに鈴野夜を見て「こっちへ来い。」と言う風な合図を出し、鈴野夜を震え上がらせた。勿論、メフィストは接客の合間に鈴野夜をこっそり見ては笑っているだけで、あとは知ったこっちゃないと言う風だ。
鈴野夜はそんな相棒を眉をピクピクさせながら半眼で見るが、どうにも釘宮に何をされるか分からないと言う不安が勝っていたため、何も言わずに釘宮の所へと向かった。
鈴野夜は釘宮に連れられて事務所へ入ると、怒鳴られるのを覚悟して待っていた。が、釘宮は予想に反して静かな口調で鈴野夜へと
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ