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処女神の恋
3部分:第三章
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はここでオリオーンの名を出してきた。これこそが彼の企みであったのだ。
「オリオーン!?あの英雄の」
「そう、彼なんだ」
 アポロンは続けてアルテミスを誘い込みにかかった。
「彼のことは聞いているよな」
「弓の名手でもあるのよね」
「そう、御前とも充分やっていける程にな」
「私とも」
 それを聞いてアルテミスの心が動いた。これがアポロンの狙いであった。純真な彼女には兄の企みが読めなかったのだ。
「どうだ?」
「そうね」
 まだ迷ってはいたがかなり乗り気ではあった。これは否定しようがなかった。
「兄さんの薦めだし」
「そうか、じゃあ決まりだな」
「えっ、ちょっと待って」
「アルテミス」
 アポロンはあえて何時になく優しい声で妹に語りかけてきた。
「迷うのは神としては失格だぞ」
「確かにそうだけれど」
 目は泳いでいた。しかし神という言葉を出されては月の女神である彼女がどうも思わない筈がなかった。アポロンはそうしたことまで計算していたのだ。
「迷っては駄目だ」
「迷っては駄目」
「まして御前は狩猟の女神だ。その御前が迷っていてはどうするのだ?」
 兄は言葉巧みに妹を導いていく。
「御前が迷っていては。狩人達が逆に獲物にやられてしまうぞ。それが御前の望みなのか?」
「それは・・・・・・」
「どうなのだ、アルテミス」
 俯いてしまった妹にさらに問う。もうこれで終わりだという手応えがあった。
 そしてそれは当たっていた。アルテミスは遂に陥落した。
「ええ、わかったわ」
 こくりと頷いた。
「神は迷ってはいけない」
「うむ」
「決めたわ。私はオリオーンを迎え入れるわ」
 顔を上げた。その顔は意を決した顔であり、凛々しくなっていた。美少年とも思える、凛とした美貌であった。
「その言葉、偽りはないな」
「ええ」
 少なくとも彼女は嘘はつかない。正直な女神であった。
「オリオーンを。私のパートナーに」
「よし、それでいい」
 アポロンはこの言葉を表と裏、二つの意味で言った。
「これで御前にパートナーが出来たな」
「オリオーンが」
「そうだ、オリオーンが」
 これが表の意味だった。そして裏の意味は。
 彼をメロペーから離せるとほくそ笑んでいた。しかしそれは口には出さなかった。彼が裏で、心の中で言った言葉に過ぎなかったのであった。

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