3部分:第三章
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第三章
「ったくよ、よく延びる首だな」
「ろくろ首でありんすから」
「だから何でここにいるんだよ」
彼はその朝顔の首を見上げて問う。行灯の灯りの中にその首が浮かび上がりとても楽しそうに部屋の中を漂っていた。
「この吉原によ」
「ああ、それはですね」
「どうしてなんだ?」
「ここの旦那に頼んででありんすよ」
「旦那はおめえがろくろ首ってこと知ってるのかい?」
「あい」
ここでまた楽しそうに話す朝顔であった。
「勿論でありんすよ」
「怖いな。化け物でもか」
「けれど人を襲ったり食ったりはしないでありんすよ」
「化け物だってのにかい」
「化け物でも色々ですよ」
朝顔はこうも話した。
「あちきみたいなろくろ首はそんなことしませんよ」
「じゃあ何を食ってるんでい」
「そりゃ人と同じのをでありんすよ」
「だから酒も飲むってのかい」
「あい」
その通りだとにこりと笑って二郎吉に答える。
「そういうことでありんす」
「じゃあ何かい?首が伸びるだけかい?」
「そうでありんすよ。首が伸びるだけでありんす」
「そうなのかい。よし、わかった」
「わかってくれたでありんすか」
「話を聞けばあれだな。ろくろ首は人間と変わらねえな」
「そういうことでありんす。あちきは首以外に何処がおかしいでありんすか?」
首で彼の周りをとぐろに巻きながら問う。
「それ以外の何処が」
「まあおかしくはねえな」
彼もそれは認めた。
「首はおかしいがな」
「けれどそれだけでありんすね」
「そうだな。じゃあいいのか?」
「それでここの旦那もあちきを入れてくれたでありんすよ」
朝顔はまたこの話をしてみせた。
「他にはなーーーんもおかしなところはないでありんすから」
「そうか。ここの旦那がなあ」
「それで兄さんはどうでありんすか?」
「俺か?」
「あちきが怖いでありんすか?」
「馬鹿言え」
返答はこれであった。
「怖い筈があるか」
「それはないでありんすね」
「ただ首が伸びるだけでどうってことはねえじゃねえか」
落ち着いて見てみれば本当にそれだけだった。彼も最初は驚いたがそれでもだ。慣れればどうということは全くないものであった。
「それがどうしたってんだよ」
「それじゃあどう思ってるでありんすか、今は」
「だからどうってことはねえよ」
朝顔にこう返した。
「普通の花魁と同じだな」
「普通の?」
「まあ上玉だな」
ここで花魁としての彼女を話した。
「それもかなりだな」
「言ったでありんすね。上玉でありんすね」
「ああ、上玉だ」
また言ってみせた彼だった。
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