7部分:第七章
[2/3]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
か、それは」
「それはね」
アテナは少し下を向いて顔を背けた。そのうえで述べる。
「貴女の話を聞いて。それでどんな姿なのかこの目で直接確かめたかったから」
「そうだったんですか」
「隠していて御免なさいね」
「いえ、それは」
そんなことを気にするメデューサではない。許すまでもなかった。
「私は別に」
「そう」
「それよりもそれで私を見に来られたんですか」
「奇麗だと聞いてね」
「奇麗だから」
「今ここに呼んだのも同じ理由よ」
アテナは言った。
「最初はね、話を聞いていると腹立たしかったのよ」
メデューサに顔を向けてこう言った。
「それでも他に何かあって」
「他に」
「それで実際に会ってみて」
さらに言う。
「何となくわかって。いまやっとわかってきたわ」
「何なんですか、それは」
「私はね、貴女のことが好きなのよ」
「私が」
「ええ」
アテナはメデューサの顔を見詰めてきた。曇りのないその澄んだ目で。彼女の顔と目を見ていた。
「私は。貴女のことが好きなのよ」
「アテナ様が私を」
「それをね、貴女に言う為に」
「オリンポスへ呼んで下さいましたのね」
「駄目かしら」
アテナにとってはじめての顔であった。自信なさげで頼りない顔になった。いつもの凛として自信に満ちた顔が消え失せていた。如何にも心配そうな顔でメデューサを見ていた。
「私では貴女に。相応しくないかしら」
「いえ」
だがメデューサはその言葉に首を横に振った。
「私のことを。好きでいて下さるんですよね」
「それは」
アテナは弱々しい様子でこくりと頷いた。
「変わらないわ。今の気持ちは」
「そうでしたら」
メデューサはこのうえなく優しい微笑をアテナに向けてきた。
「私なんかで宜しければ」
「いいのね、私で」
「はい」
全てを受け入れる笑みであった。
「こちらこそ。私なんかがアテナ様に」
「女だけれど」
「私も女ですよ」
ギリシアでは神であろうと愛に性別は関係ない。
「同じですよ」
「そう、同じなのね」
アテナはその言葉に何か救われた気持ちになった。
「私も貴女も」
「そうだと思います」
メデューサはまた述べた。
「だから好きになって」
「それを受け入れて」
二人は自然を歩み寄り合った。そして。
「じゃあこれからは」
「はい、二人で」
抱き合った。今二人の心が結ばれた。
「私は愛を知らないけれどこれからは」
「二人でそれを育んでいきましょう」
「そうね、二人で」
「二人でずっと」
恋を知らない筈の処女神が。恋をしてそれを実らせた。緑のオリーブの木の下で。このうえなく優しい抱擁を交あわせるのであった。恋を知って。
アテナとメデューサ 完
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ