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アテネとメデューサ
7部分:第七章
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か、それは」
「それはね」
 アテナは少し下を向いて顔を背けた。そのうえで述べる。
「貴女の話を聞いて。それでどんな姿なのかこの目で直接確かめたかったから」
「そうだったんですか」
「隠していて御免なさいね」
「いえ、それは」
 そんなことを気にするメデューサではない。許すまでもなかった。
「私は別に」
「そう」
「それよりもそれで私を見に来られたんですか」
「奇麗だと聞いてね」
「奇麗だから」
「今ここに呼んだのも同じ理由よ」
 アテナは言った。
「最初はね、話を聞いていると腹立たしかったのよ」
 メデューサに顔を向けてこう言った。
「それでも他に何かあって」
「他に」
「それで実際に会ってみて」
 さらに言う。
「何となくわかって。いまやっとわかってきたわ」
「何なんですか、それは」
「私はね、貴女のことが好きなのよ」
「私が」
「ええ」
 アテナはメデューサの顔を見詰めてきた。曇りのないその澄んだ目で。彼女の顔と目を見ていた。
「私は。貴女のことが好きなのよ」
「アテナ様が私を」
「それをね、貴女に言う為に」
「オリンポスへ呼んで下さいましたのね」
「駄目かしら」
 アテナにとってはじめての顔であった。自信なさげで頼りない顔になった。いつもの凛として自信に満ちた顔が消え失せていた。如何にも心配そうな顔でメデューサを見ていた。
「私では貴女に。相応しくないかしら」
「いえ」
 だがメデューサはその言葉に首を横に振った。
「私のことを。好きでいて下さるんですよね」
「それは」
 アテナは弱々しい様子でこくりと頷いた。
「変わらないわ。今の気持ちは」
「そうでしたら」
 メデューサはこのうえなく優しい微笑をアテナに向けてきた。
「私なんかで宜しければ」
「いいのね、私で」
「はい」
 全てを受け入れる笑みであった。
「こちらこそ。私なんかがアテナ様に」
「女だけれど」
「私も女ですよ」
 ギリシアでは神であろうと愛に性別は関係ない。
「同じですよ」
「そう、同じなのね」
 アテナはその言葉に何か救われた気持ちになった。
「私も貴女も」
「そうだと思います」
 メデューサはまた述べた。
「だから好きになって」
「それを受け入れて」
 二人は自然を歩み寄り合った。そして。
「じゃあこれからは」
「はい、二人で」
 抱き合った。今二人の心が結ばれた。
「私は愛を知らないけれどこれからは」
「二人でそれを育んでいきましょう」
「そうね、二人で」
「二人でずっと」
 恋を知らない筈の処女神が。恋をしてそれを実らせた。緑のオリーブの木の下で。このうえなく優しい抱擁を交あわせるのであった。恋を知って。


アテナとメデューサ   完

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