相似で相違な鏡合わせ
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帰還した秋斗に待っていたのは忙しい山積みの仕事……ではあるが、何よりもまず迎えてくれたのは民の声であった。
戦の勝利と、街をゆるりと練り歩いていた隣人のような英雄が無事に帰ってきたことへの歓び。
親しみを込めて民達は言う。一人が言えばまた一人……おかえりなさい、と迎えの言葉を。
月光に跨る彼は皆に謳われる黒麒麟に違わず、少年達はその堂々たる姿に憧憬を描き、男達は代わりに守ってくれた事に心熱く滾らせる。
ただ、新顔の幼女を侍らせている彼に呆れと苦笑を漏らすモノも少なくない。もはや幼女を傍に置いていることは日常茶飯事と化していたのだから、ああやっぱり、と何処か生暖かい視線を送るのも詮無きこと。
しかして知っている者は知っているモノで、その少女がかの元劉備軍の鳳雛……否、鳳凰であると噂すれば、黒馬に跨る二人の姿に更なる納得を重ねて行き、期待が膨らんでいった。
曰く……四霊である麒麟と鳳凰の仲睦まじきはこの上なき吉事。あの二人が主を変えてでも仕える覇王こそ、この大陸を統べる王に相応しい。
お伽噺の幻獣の名を冠する二人が揃えば、そんな話も街を走ってしまう。
手を振って応えて、心よりの笑顔を向けて、皆が平穏に歓喜を刻む。華琳達の凱旋の時と相違ない程に、彼の帰還は民を湧き立たせた。
警備隊は大忙しであったが、其処は華琳と桂花である。すぐさまこういう行事ごとへの対応に慣れている徐晃隊を動かして民の安全を図った。
事前に戻らなかったと聞いていた彼ら徐晃隊の中で澱みは膨らむ。涙する者さえ居た。
昔のように月光に乗っているというのに、雛里や月光と彼の間に絶対の距離が見て取れたのだ。
それでも仕事優先で、悲哀にばかり沈むわけにはいかない。ぐ、と堪えて自分の為すべきことに意識を向けて行く。
あと、徐晃隊の中には少しだけ羨望を向けるモノも居た。
今の彼であろうと共に戦える兵士達が羨ましい。彼が欲して使うと決めた猪々子以下文醜隊……九番隊が羨ましいのだ。
副長のように凡人達の指標ではないが、猪々子がどんな人物か話は聞いている。
そもそもが徐晃隊向きの性格で、副長達最精鋭が最期に戦い、捨て奸を選ぶ程の気概を持ち、秋斗とのバカのような一騎打ちは彼らも認めるに足りる。
嫉妬はしない。ただ羨ましい。戦えることが……そして認められている事が。
しかしそれでも折れぬが彼らの力。特に第三の部隊長等は、後で猪々子と戦おうと心に決めている。毎日毎日、飽きることなく戦えばいい。血みどろになろうと、傷だらけになろうと、黒麒麟という化け物に挑み続けた男が居たのだから。
強くあれと願う彼らはそれでいいのだ。副長を超えるには、猪々子を倒せばいい。彼らが黒麒麟の身体を名乗るなら、この九番隊にだけは負けてはならない。明
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