相似で相違な鏡合わせ
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秋斗の黒瞳を見据えて、笑った。
「おかえり、秋斗」
茫然と一寸だけ止まった後に、彼も真っ直ぐにアイスブルーを見たまま、笑った。
「ただいま、華琳」
その時彼の心に浮かんだのは……安らぎと懐古の心地よさだった。
彼が去った後、不満をありありと浮かべてまだ扉を睨みつけている桂花。
静かに仕事を始める華琳は機嫌がいい。自身の主が親しみと充足を感じさせた男に、嫉妬の心燃ゆるのも詮無きかな。
桂花にとっては大嫌いな男だ。そこらへんでのたれ死んで欲しいくらいに嫌っている。口を開けば悪態しか出て来ないだろう。本質的に嫌いで、受け付けられない。
曖昧にぼかしつくすやり口も、誰かが向ける淡い想いを今の自分に向けられていると認識しない鈍感さも、華琳には敵わないと知っていながら並び立とうと追いかける無謀さも、ゆるゆると人の心情を読み解いて裏や表で動く鋭さも、自分の命を軽く扱って無理を通すわがままさも……そして一番は、他人の笑顔の為に誰にも頼ろうとせずに舞台で笑って踊る道化師の在り方。それらが嫌いだった。
才能も知識も認めている。仕事では秋蘭と同じ程度使い易くて、戦では春蘭や霞に並べる程。自己判断のきらいが強いが、駒の使い勝手としてはこの上無い。不可測の独自行動も華琳が予測出来ることで、必ず報告をする辺りある程度は間に合うレベルのモノ。
将達との亀裂も不和もなく、どの部隊の兵士であろうと多くから慕われている。その時点で外せない緩衝材の役割を担っているといえよう。
本来なら嫌う輩が出てもおかしくないはずであるが、彼はあまり悪感情を向けられることが無い。その点を見ても、桂花としては何故と、疑問や苛立ちが募っている。
「不思議? 私が……いえ、皆があの男を嫌わないこと」
心の内側を読まれて、桂花はビクリと肩を跳ねさせた。
「……はい」
小さなため息を落とした華琳は、そのまま机の上に腕を組んでゆったりと背筋を伸ばす。
流し目で見つめられて跳ねる心臓は、彼女が全てを見透かすような鋭い視線を放っていることから。
「アレについては、多かれ少なかれ納得出来ない部分や苛立ち、そして恐怖を持っているはずよ。関わったモノなら兵士であろうと誰でもね。妬みや嫉み、自分勝手さやガキっぽさに向ける呆れ、自分を救ってくれないことに対する利己の憎悪、儒と既成概念に反逆したことへの恐怖と畏怖、色んな感情を少なくとも持っているでしょう。ただ、あのバカがこと人間関係に於いて程よい距離を築くに長けている……というわけでは無い」
人の感情はどれだけの存在に対してでも悪感情を向けるモノ。幽州のように狂気の如き信仰に堕ちていない限りは、である。人間はそれほど頭が悪くないのだ。誰かしら気付くモノは出
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