ある少女の話
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付くことはなかった。その大きな黄金色の月に心を奪われてしまっていたのだ。
窓の側のテーブルに腰掛けた。そこにはワインのグラスとボトルが一本置かれていた。事前に彼女が置いていてくれたものであろうか。見ればフランス産の赤であった。
「丁度いい」
風呂からあがったばかりで喉が渇いていた。僕はボトルを空けガラスのグラスにワインを注ぎ込んだ。そしてそれを口に含んだ。美味かった。
瞬く間に一本空けた。他には何もいらなかった。月を見ながら飲むだけで充分であった。月が僕に飲むように勧めているようであった。
一本空けると眠気が身体を支配した。僕はその天幕のベッドに入った。そしてそのまま休んだ。目が醒めるともう朝になっていた。
起きて服を着た後で部屋を出る。やはり誰もいる気配はしない。
たまたまだろうな、そう思いながら食堂に向かう。そこにも誰もいなかった。
「お早うございます」
後ろから彼女の声がした。そちらを振り向く。
するとそこにいた。見ればやはり白い服を着ている。
「あ、どうも」
僕もそれに応えた。
「お早うございます」
「はい」
彼女はそれを受けて頷いた。それから彼女は僕に対して言った。
「今朝は外で食べませんか」
「外でですか」
「はい。もう用意してあります」
そう言って食堂の外を指差す。そこには一組の白い木の椅子とテーブルがあった。そしてその上にはバスケットと飲み物が置かれていた。
「如何ですか。朝日の下での朝食というのもいいですよ」
「そうですね」
僕は頷いた。
「それではご一緒させて下さい」
「わかりました」
彼女は微笑んで僕をそこへ案内した。僕は彼女に従い食堂の外に出た。そしてそこに腰掛けた。それから朝食となった。
バスケットの中にあるのはパンとサンドイッチであった。パンはやや固いフランスパンである。彼女はそれにマーガリンを塗って食べていた。
「如何ですか」
彼女はそのマーガリンを僕に差し出してきた。
「有り難うございます」
僕はそれを受け取った。そしてそれを彼女と同じくマーガリンに塗った。そしてそれを口に入れた。美味かった。こんなに美味しいパンはそうそうあるものではない。
「美味しいですか」
彼女は僕に問うてきた。
「はい」
僕はそれに素直に答えた。
「美味しいですね、このパン」
「そうですか」
彼女は僕の言葉を聞くと顔を綻ばせた。
「そう言って頂けると嬉しいです。それにいつも食事は一人ですし」
「そうなのですか」
「はい」
彼女は答えた。
「父も母もおりませんから。私はいつもここで一人で食事をとっておりますのよ」
「そうだったのですか」
「はい
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