ある少女の話
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前に僕に対して言った。
「こちらです」
そしてまた案内する。ここで僕は一つ不思議なことに気がついた。
この家にいるのは彼女以外にはいないようなのだ。この洋館の手入れも食事もとても一人でできるものではない。だがここには彼女しかいないのだ。これはどういうことなのであろうか。僕がたまたま他の人に会ってはいないだけなのか。それについて考えざるを得なかった。だがここでも彼女は僕のそんな考えを見越したかのように僕に声をかけてきたのである。
「広い家でして」
前を行く彼女は僕に顔を向けることなくそう話し掛けてきた。
「何かと使用人達には迷惑をかけております」
「そうなのですか」
僕はそれを聞いて安心した。どうやら僕がたまたま出会ってはいないだけだと納得した。この時は。だがそれはやはり違っていたのだと後で気付くことになるのだ。
廊下の左右の燭台を見る。ゆらゆらとおぼろげな炎が漂っている。そこには何故か熱を感じはしなかった。触れても熱いものだとはとても思えなかったのだ。不思議な炎であった。見ればその蝋燭の蝋も不思議であった。何故かそれが人の手に見えるのである。
彼女はやがてある部屋の前に来た。そしてその褐色の樫の扉を開けて僕をそこに案内した。
「こちらです」
「はあ」
中を見て驚いた。豪奢な装飾が施されており、花で飾られていた。そしてベッドは天幕であった。
「よくお休み下さい」
「あの」
僕は彼女に問わざるを得なかった。
「何でしょうか」
彼女はそれを受け僕に顔を向けてきた。
「この部屋を使って宜しいのでしょうか」
生まれ故だろうか。こうした豪奢な部屋には慣れてはいない。ましてや天幕付きのベッドにも慣れてはいない。いや、この目で見たのは今がはじめてであった。お世辞にも生まれはよくないのだ。
「構いませんよ」
彼女は優美な笑みを浮かべてそう答えた。
「こちらはお客様用のお部屋なのですから」
「そうなのですか」
僕はそれを聞いて頷いた。
「では使っても宜しいのですね」
「はい」
彼女は答えた。
「是非ともお使い下さい」
「わかりました」
僕はそれを聞いてようやく部屋に入った。
「では有り難く使わせて頂きます」
「どうぞ」
彼女は静かな声で答えた。
「ではお休みなさい。どうぞごゆっくり」
そう言って扉を閉めた。部屋は暗闇に包まれた。
いや、違った。大きな窓から月の光が差し込んでいた。その光が部屋を照らしていた。
「また大きな月だな」
僕は窓の側に行きその大きな月を見て呟いた。満月であった。
ここで僕はあることに気付くべきであった。今は満月が出る時期ではないのだ。だが僕はここでもそれに気
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