ある少女の話
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ないと知ったうえでの言葉であった。そう、僕はそれを断ることはもう出来はしなかったのだ。
「お願いします」
僕はそう答えた。
「是非あの空と海を見せて下さい」
「わかりました」
彼女はそれを認めた。
「どうぞ好きなだけ留まって下さい」
「はい」
僕は頷いた。そしてその日からこの洋館に滞在することとなった。夏休みであるのをこの時程有難く思ったことはなかった。神に感謝した。だが僕は後で本当に心から神に感謝することになる。この時はまだそんなことは思いも寄らないことであったのだが。
夕食は洋食であった。やはり古風な感じがする食堂で僕は彼女とテーブルで向かい合って食事をとった。
「あの」
彼女はその席で僕に問うてきた。
「はい」
僕はそれに顔を向けた。すると彼女が微笑んでいた。やはり今思うと純粋そうで何かがある微笑みであった。
「今夜はここに泊まられるのですね」
「宜しいのですか、本当に」
僕はまた問うた。
「本当にいいのですね」
繰り返さざるを得なかった。まさか泊めてもらえるなど。常識では考えられないことである。
「はい」
やはり彼女は頷いた。
「是非ともお願いします」
「わかりました」
僕はそれを受けて答えた。
「それでは御好意に甘えまして。宜しいですね」
「お願いします」
こうして僕はこの洋館に本当に留まることになった。夕食を終えると風呂に案内された。風呂場は洋館の端の方にあった。この白浜は温泉でも知られている。だからここに来たのでもある。やはり温泉はいい。
洋館であったがそこには見事な露天風呂があった。彼女は僕をそこまで案内すると姿を消した。そして風呂場には僕一人となった。
僕はそこで心地良い風呂を楽しんだ。和風のよい露天風呂であった。檜の香りがする。だがそこには少し別の匂いが漂っていた。
「これは」
僕はその匂いを良く知っていた。だからこそ気付いたのであるが。
それは鉄の匂いであった。いや、正確に言うならばそれは血の匂いであった。僕はそれに気付いた時不思議な感触を抱かずにはおれなかった。
「これはどういうことだ」
辺りを見回す。だが何もない。何もいない。誰も何もないのだ。
では何故か。僕は考えた。しかしやはり血の匂いを感じさせるものは何処にもないのだ。これが一体何なのかこの時の僕には全くわからなかった。
首を傾げた。だがやはりわからない。僕は風呂に戻り身体を洗って風呂を出た。その匂いは一瞬のことでありそれからはそんな匂いは消えていた。僕は着替えを終え風呂場を出た。そこには彼女が待っていた。
「あの」
出るとそこにいたので戸惑わずにはいられなかった。何か言おうとしたが彼女はその
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