ある少女の話
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にいるのです。だからこそ望むものは何でも手に入ると不安を覚えるのです」
「だからだったのですね」
どうやら思い当たるふしがあったらしい。
「皆不安な顔で帰っていったのは」
「そういうことです」
「私は不安を取り除きたかったのに」
「逆効果でした」
そう言わざるを得なかった。
「多少不足がある程度でなければ駄目だったのです」
僕は言葉を続けた。
「この洋館、いえ貴女には何でもあります」
「はい」
「景色も食べ物も住居も。これ以上のものはそうはないでしょう」
だがそれが仇となったのだ。
「そのせいです。それが駄目だったのです」
「それが・・・・・・」
流石にショックを受けているようであった。
「私の中が満ち足りていたせいで」
「そういうことになります」
僕は答えた。
「貴女はあまりにも満ち足り過ぎています。ですがそれは人にとってはかえって不安を招くもの。そしてその不安は普通の不安よりも遥かに大きなものなのです」
「・・・・・・・・・」
彼女はまた沈黙した。
「どうすればよかったのでしょう」
「貴女の思いやりの心が強過ぎなければよかったのですが」
「人を思うのがいけなかったのでしょうか」
「少し違います」
僕は言った。
「人は優しさを有り難がるものです。ですが人はそれ自体で一つの家なのです」
「家」
「そう、貴方と同じです」
「私と」
「貴女はどうか知りません」
僕はまた言った。
「ですがそれは不完全な家なのです」
「不完全な」
「だからこそ完全なものを求める。しかし人間という家は決して完全なものにはなれないのです」
「そうなのでしょうか」
「貴女御自身もそうでしょう」
「私も」
「そうです。貴女もまた満たされていません」
「それは認めます」
彼女は答えた。
「そういうことです。無理をして完全なものになろうとする必要はない。そして」
「私は人にそれを押し付けていただけだったのですね」
「厳しいことを言うようですが」
「・・・・・・・・・」
また沈黙してしまった。だが僕は言った。
「思いやりも時として仇になります。そして人は過度の干渉を嫌うのです」
「私はそれに気付かなかった」
「そうなりますね」
「ずっと今まで」
「ええ」
「・・・・・・・・・」
その目に光るものが宿った。ようやくわかったのだろうか。
「ですがまたここに来ます」
「えっ」
その言葉に驚いたようであった。思わず顔を上げた。
「来られるのですか!?」
「はい」
僕はそれに答えた。
「そんな貴女の思いやりですが僕は快かったです。また来て
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