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ある少女の話
ある少女の話
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までですか」
「ごくごく稀に人が来られましたけれど」
 そのうちの一人が僕であるらしい。
「どなたもすぐに去られました」
 また悲しい声になった。
「それが何故なのかわかりませんでした。私の何処がいけなかったのでしょうか」
 悩む声になった。
「その方の望まれることをしてきたというのに」
「望まれることですか」
「はい」
 彼女は答えた。
「どの方の御心もお読みして。それから尽くしたのですが」
「それはわかっています」
 僕はそう言った。
「貴女は今まで僕に本当によくしてくれています。それは深く感謝しています」
「しかしそれでもここを去られるのですね」
「はい」
 否定するつもりもなかった。
「やはり」
「帰らなければなりませんから」
「貴方も」
「ええ」
 僕は答えた。
「そしてこれからどうされるおつもりですか」
 そう問うてみた。
「僕を殺したりするおつもりですか」
「どうしてですか?」
「帰られるのならいっそ、と」
「そんなことは致しません」
 首を振ってそう答えた。
「そのようなことは」
「では今まで貴女のところに来た人は」
「はい」
 頷いた。
「皆帰られました」
「そうでしたか」
「私は家ですから」
 悲しい微笑みであった。
「家がどうして人を害することができましょうか」
「そうですね」 
 その優しさがかえって彼女を苦しめていることはわかっていた。
「そして貴方も去られるのですね」
「そうですね」
「何故でしょうか」
「何故」
「こちらに留まれない理由でも」
「ありますよ」
 そう答えを返した。
「人は確かに満ち足りた生活を望みます」
「ええ」
 それは彼女が最もよくわかっていることであった。
「ですが」
「ですが!?」
「人はそれだけでは満ち足りないのです」
「それはどういうことでしょうか」
「御存知ありませんか」
「何をでしょうか」
 彼女は全くわかっていなかった。それが今までの悲劇の理由であるのだが。
「貴女はそれがわかっておられないのですね」
「何をでしょうか」
 またその言葉を繰り返してきた。
「人は自らの望むものばかり手に入っているとかえって満ち足りないのです」
「それはどういうことでしょうか」
「人間とはそうしたものです」
 僕はここでこう答えた。
「満ち足りてばかりだとかえって不安を覚えます」
「不安を」
「ええ。人の世はそうではありませんから。我々は人の世にいるのです」
「私の中ではなくて」
「はい」
 僕は頷いてそう答えた。
「我々は常にその世界
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