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ある少女の話
ある少女の話
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                  ある少女の話
 あれは和歌山の洋館での話だった。僕は旅行で白浜に来た時にたまたまその横を通り掛かった。
 見ればかなり古い洋館であった。建てられて一体どれだけ経っただろうか。明治の初め頃に建てられたものではないかと思った。
 その洋館は崖の先の方にあった。そしてそこからは青く広い海と空が見えていた。それはまるで二色の宝石をちりばめたかのように美しかった。
 僕は暫くその空と海に見惚れていた。だがここで洋館から一人の少女が出て来た。
「もし」
 僕はその声に気付きふとそちらに顔をやった。そこには白い薔薇の様なドレスに身を包んだ美しい少女がいた。長い髪は黒く、絹の様に美しい。そして白いきめの細かい肌を持ち目は琥珀の色をしていた。十六七頃であろうか。小柄で華奢な少女であった。
「はい」
 僕は彼女に答えた。気がつけば彼女はもう僕のすぐ側まで来ていた。
「海と空がお好きですか?」
 彼女は僕に問うてきた。
「はい、まあ」
 僕は問われるままそれに答えた。
「嫌いではないです。けれどここから見える空と海は」
「特に美しいと仰りたいのでしょう」
 彼女は優雅に微笑んでそう言った。まるで妖精の様に美しい笑みであるがこの時僕は気付かなかった。その微笑みには別のものが隠されていたと。そしてそれは妖精であっても僕が普段本で読む妖精ではなかったのだ。妖精といっても色々いる。その妖精は邪な妖精であったのだ。
「は、はい」
 そして僕はその微笑みに捉われた。彼女の言葉に従い、そのままに答えた。
「ここまで綺麗な空と海は今まで見たことがありません」
「そうでしょう」
 彼女はやはり微笑んでいた。
「もっと見たいと思いませんか?」
「もっとですか」
「ええ」
 今度は目を細めてきた。その大きな瞳が美しい線となった。
 僕はそれを拒むことは出来なかった。それは何故であったのか今ではよくわかる。この時僕は既に彼女の虜となっていたのだ。だからこそそうして彼女に従ったのだ。
「宜しければお家へいらっしゃいませんか」
「そちらの洋館ですね」
「はい。あそこから見える空と海はもっと美しいですよ」
「もっと」
 それを聞いて足を進めずにはいられなかった。
「失礼ですが」
「はい」
 彼女はここで僕が虜になったのを感じていた。
「お邪魔させて頂いて宜しいでしょうか」
「喜んで」
 彼女はそれを受け入れてくれた。いや、受け入れたのではなかった。僕はもう彼女の餌食になろうとしていたのであった。それを今ようやく気付いた。
 僕は彼女に案内され洋館に入った。遠くから見るとかなり古く見えたが側で見るとその印象は全く変わったものとなっ
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