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至誠一貫
第一部
第六章 〜交州牧篇〜
七十 〜徐州での一夜〜
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いえ。何を訊ねても無言を貫いています」
「そうか。殿、如何なさいます?」
「……皆、外してくれぬか。彩は残れ」

 男の面構えからして、ただ者とは思えぬ。
 口を割らせるよりも、自主的に話させる方が手っ取り早そうだ。

「殿のご命令だ。皆、外に出よ」
「はっ!」

 兵全員が、足早に天幕を出て行った。

「さて。まずは、名を聞かせて貰おうか」
「…………」
「黙りか。では、私から名乗ろう。土方歳三だ」

 と、男が微かに反応する。

「……貴殿が、土方殿。確かですな?」
「偽りを申すつもりはない。此処は我が陣、それと知っての事だな?」

 男は、小さく頷く。

「……貴殿のその面構え、常人ではあるまい? それ故、拷問にかけずに話を聞こうと思ったのだが」
「……ならば、この縄を解いて頂きたい。それから、お人払いを」
「縄を解く前に、まずは名乗りを上げるべきではないのか? それからこの者は我が腹心の張コウ、何を聞かれても構わぬ」
「……わかりました。私は陳登と申します」

 ほう、徐州の陳登と申せば……唯一人であろう。

「……私を御存知か?」
「些か、な。貴殿の父御は陳珪殿で相違ないか?」
「はい。ですが、貴殿、いえ貴方様とは初対面の筈。何故、私達の事を?」
「……悪いが、その問いには答えられぬな。彩、縄を解いてやれ」
「御意」

 縄を解かれた陳登は、手を擦りながら立ち上がる。

「ふう。正体を明かした以上、私は役目を果たさなければなりますまい」
「うむ、聞こう」
「はい。実は、我が主に密かにお会いいただきたいのです」
「刺史の陶謙殿だな?」
「はっ」
「病に臥せっておられると聞いているが」
「然様です。それ故、土方殿と一度、話をさせて頂きたいと」
「ふむ……。だが、私は曹操殿の加勢としてこの地に来ている。面会ならば、曹操殿に申し入れてはどうか?」

 陳登は、大きく頭を振った。

「いえ。我が主は、土方殿のみお連れせよ、と。これは、厳命にございます」

 危険を承知で忍んできた理由としては、得心がいく。
 ……華琳には知られたくない、か。

「私のみ、という訳か。理由は?」
「……申し訳ありませんが、聞かされておりません」

 問い質すだけ、無駄であろうな。
 仮に知っていたとしても、決して話すまい。
 ……だが、迂闊に動く訳にもいかぬ。
 華琳に知られずに陣を抜け出すのがまず困難。
 それに、これが何らかの罠である可能性もある。
 第一、此所から徐州城までの距離を考えるだけでも、密かに往来するなど不可能の極み。

「陳登殿。貴殿の口上は承った」
「で、では」

 身を乗り出す陳登を、手で制した。

「待て。だが、今すぐ
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