第一部
第六章 〜交州牧篇〜
六十九 〜臥龍、羽ばたく〜
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好奇心が、大いに働いている事も否定はせぬ。
無論、兵らの命を軽んじるつもりはないが、賭けてみる価値は十分であろう。
半刻が過ぎた。
そろそろ、刻限の筈だが。
……次第に、冷えてきたな。
「土方様! あれを!」
兵の声に振り向くと……川から、もうもうと霧が立ち上り始めていた。
賊軍が陣取っている方角が、忽ちのうちに霞んでいく。
「朱里の予告通りだな。……皆、良いか?」
「応っ!」
抑えた声ながら、士気は十分と見た。
「では、行くぞ」
彩や夏侯淵らも、頃合いを見計い、動き出していよう。
後は、如何に気付かれずに接近するか。
その為に、一部の兵らは甲冑を着せていない。
音を立てずに忍び寄り、賊軍を混乱させる事に専念するよう命じてある。
無論、全員が徒となるが、やむを得まい。
私も自ら先遣隊を率いて、敵陣に近づいていく。
……多少の危険は承知の上。
常に兵らを危険に晒しているのだ、この程度の事で先頭を切らねば、彼らの上に立つ資格はない。
「土方様」
「……うむ」
見張りであろうか、話し声が聞こえ始めた。
「お、おい、何だこりゃ?」
「周りが全然見えやしねぇぞ」
どうやら、奇襲は成功したようだな。
「……よし。やれ」
「ははっ!」
合図と共に、兵らが押してきた荷駄車から甕を下ろし、口を開けて中身を地面に流し始める。
貴重な油だが、致し方あるまい。
暫し待ち、一斉に火矢を放った。
あちこちから火の手が上がり、忽ちのうちに賊は算を乱す。
「か、火事だっ!」
「い、いや! 敵襲だ、官軍の夜襲だぞ!」
こうなれば、統率も何もあったものではない。
「皆の者。合図を忘れるな」
「応っ!」
「かかれっ!」
兼定を抜き、敵陣に斬り込んだ。
「山!」
「……? ギャッ!」
答えのない人影を、一刀のもとに斬り捨てる。
忽ち、辺りは阿鼻叫喚の世界と化していく。
一方的な殺戮戦が、幕を開けた。
夜が明けた。
あれだけ立ちこめていた霧も、次第に薄れていく。
「終わったようだな」
「そうね」
華琳も、返り血を浴びて凄まじい様相を呈している。
私も、恐らく同様であろう。
「華琳様。張ガイの首、此方に」
「ご苦労様、秋蘭。どうやら、諸葛亮の策、見事に的中したようね」
「そうだな。朱里、良くやった」
「エヘヘ、ありがとうございます」
照れながらも、朱里は安心したように微笑んだ。
「しかし、霧を用いるとは……私も、それは思いつきませんでしたよ」
「いえ、私はこの辺りの出身です。だから、気温とか季節の関係で、予測出来ただけです。たまたまですよ、荀攸さん」
「ふふふ、謙遜ですか。流石は、水鏡塾きっての天才ですね」
「……
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