狂った宴の後に
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人間の欲は醜かった。
自分が動けば誰かが死ぬ。それでも選んだことだからとずっと続けていた。
止めることは出来たかもしれない。途中で止まれたかもしれない。それでも彼女には思いつかなかった。
この乱世で活躍している有名な武将全ての中では平均程度でも、袁家にとっては脅威。人には異端を恐れ拒絶し、排斥しようとする輩もいるのだ。
彼女の場合、その初めの人間が両親であった、ただそれだけ。奴隷のような身分の者達にはありふれている出来事で、他の兵や将よりも飛び抜けた力がなければ普遍的な存在にすぎない。
「なんでだろね……あの時はあんなに泣いたのに、あの後はあんなに苦しんだのに、あれより前はあんなに幸せだったのに……それでも戻りたいなんて思えないんだ」
ふと考える。
今の自分ならもっとうまく生きる事が出来ただろう。今の自分なら彼女を救い出す事も出来るだろう。親と幸せに暮らして、普遍的な武将としてゆるりと過ごせただろう。
例えば趙雲のように、例えば夏侯淵のように、間を取り持つ役目を申し出て、自分達の掲げる主君の為だと胸を張って言えたかもしれない。きっと綺麗で、明自身が羨ましくて仕方ない者達のように輝けるのではなかろうか。
それでも明は、戻りたいとは一寸も思えなかった。
心が冷え込んで冷え込んで、やっと出会えたのがあの少女だった。
大好きなあの少女との時間は宝物で、胸の中で暖かい大切な記憶。
そして自分を重ね続けて生きてきた。救われたらきっと自分も救われる、そんな気がしたから。
彼女の温もりは、たった二人で生きてもいいとさえ思える程に透き通っていた。
「……ねぇ、夕。秋兄があたし達と初めに出会ってたら、もうちょっとはマシになったかな?」
後悔とは違うもしものカタチ。誰かに聞いてみたい程度のお遊びの思考。
きっとそれは楽しいことだろう、と明は思う。
ナニカに抗い続ける彼ならば、自分達を救おうとしてくれるのは間違いなくて、それでいて否定することなく傍にいてくれる。
夕と同じで、明と同じで、しかして誰とも違う変な男。初めからイカレている価値観と概念を以って、自己犠牲の果てに誰かを救う為にしか動けない。
妄想してみた。
助けに来た、とか。
守ってやる、とか。
任せておけ、とか。
頼れよバカ、とか。
そんなことを言うくせに自分だけ傷だらけになって、それでも気にせずにからからと笑い、飄々としながら自分勝手に救いに来るに違いない。
弱った時はなんでもないことのように子ども扱いしてきて、丁度いい距離感のまま温もりをくれる。
「……そんなのあたし……溺れちゃうじゃん」
甘い甘いその毒は、心に浸透して変化を齎す。
誰だって自分を助けてくれる人間には心が
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