狂った宴の後に
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は選び、その中に選ばれた。胸を張れとは言わないけどそれは普通出来るもんじゃない、だからちょっとだけ誇っていい。これが初戦場だ、気合いれな。んで線引きを越えろ、人から堕ちろ、“お前らは賊徒となんら変わらない”」
口上とは違うただの事実を最後に付け足していく。それだけが、彼女の部隊である為の第一歩。
引き裂かれた口は三日月のカタチ。昏い光を灯した黄金の瞳に、兵士達は呑み込まれた。
「己が欲を満たす為に、お前らは此処からケモノに堕ちる。ナニカが欲しいのなら、ナニカを守りたいのなら、ナニカを世に示したいのなら、憎しみ恨み大いに結構、侮蔑と優越を吐き捨てろ。最低、最悪、ひゃっはーだよっ。命の輝きを喰らって強くなれっ」
ひらり、とまた明が舞った。
大きな鎌を片手で振って、一番前を駆けてくる一人の生贄を真っ二つに叩き斬った。
「あなた達の為に、あたしの為に……紅い羽根を広げよう♪」
広げた両手、肩越しに見える赤い血が蝶の羽根のように広がった。それが合図だった。
新兵達は恐怖と言い得ぬ感情の鎖で縛られ、自分の望まない戦場に駆けさせられる。
これが自分の選んだ仕事。こと此処に於いては逃げることは許されない。命を喰らわなければ、生きられない。
戦争はいつだって残酷だ。しかし一番残酷なこの部隊に所属出来るのなら……此処以下は有り得ないということ。敵の悪辣も残虐性も、紅揚羽には届き得ない。自分の将より怖いモノなど何も無い。
掃き溜めのようなこの場所で、新兵達は狂気に沈んで行った。
奪われるのを待つだけの弱い命を一人ひとりが喰らい尽くして、将たる紅揚羽を掲げるに相応しい兵士へと生まれ変わって行く。
†
血だらけの練兵場にはもはや肉片一つ落ちていない。
彼女の食時の後片付けは既に終わり、あとは雨が大地を洗い流してくれるのを待つのみ。
一人ぽつんと、明は夕暮れの空を眺めていた。
橙色の夕日は美しく、心の奥底まで寂寥の想いを染み渡らせるような……そんな光を放っていた。
「あー……終わったぁ……」
未だ血に塗れている彼女は、汚れるのも構わずに大地に身体を倒した。
大の字で寝ころべば空が良く見える。切り取られた空に手を伸ばしても届くことは無い。
「……ひひ」
笑ってみた。意図しての笑いはいつでも浮かべるモノ。
心の底から笑えるわけが無かった。
「終わったよ……夕」
復讐はこれで終わり。
大嫌いな男も、憎んでいた上層部も、全てが死んだ。彼女の生きてきた中では長くて昏い時間を抗ってきた敵を殺し切った。
両親に殺されかけ、この手を同じ血で汚したその時から、彼女の歯車は狂ってしまった。
壊れる前からずっと、
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