6部分:第六章
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第六章
やがて彼等は彼の語りを聞いた。それもまた素晴らしいものだった。
その語りを聞いてしんみりとなり最後にはさめざめと泣いた。それが終わってから彼等は満ち足りた声でそれぞれ言うのだった。
「これでいい」
「芳一殿のこの語りを聞くと」
「心が慰められる」
こう満ち足りた声を出していくのだった。
「また聞こうぞ」
「そうだな、また」
「また聞こう」
こう言い合って去るのだった。後には報酬を置いてであった。
芳一はその夜のことを和尚に話した。すすろ和尚はここで考える顔になった。
「左様か」
「はい、どうやらあの方々は私と取り殺そうとは考えていません」
「そうじゃな」
和尚も話を聞いてそれを悟ったのだった。
「その様じゃな。怨霊ではなかったのじゃな」
「それで如何しましょうか」
あらためて彼にこれからのことを尋ねるのだった。
「これからは」
「そうじゃな。怨霊でなければじゃ」
「はい」
「よい」
いいというのだった。
「平家の者達はそなたの琵琶と語りに心が満たされているのじゃな」
「そうです。それは間違いありません」
「ではこれからも続けるのじゃ」
そうしろというのである。
「よいな、それでじゃ」
「わかりました。それでは」
「それもまた人の道じゃ」
それもだというのだ。和尚は。
「だからじゃ。そうせよ」
「はい、それでは」
「わしも今わかった」
袖の下で腕を組み考える顔で述べた言葉だった。
「それもまたじゃ。道じゃな」
「そうですね。それでは」
「そうしていこう。いいな」
「わかりました」
こうして芳一はそれから平家の者達に対して語りを続けた。そのことで満ち足りた彼等はやがて成仏して世を去った。芳一はそれからも彼等の墓に日参しその菩提をと弔った。これが語り継がれている芳一の話のもう一つの話である。どちらが本当なのかはわからない。しかしこれもまた彼にまつわる話の一つである。
耳なし芳一異伝 完
2009・12・6
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