第一部
第六章 〜交州牧篇〜
六十七 〜別離〜
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自分の知識や知恵を役立てたいんです。ギョウで働いてみて、私の理想とする世界が此処にはある……そう、思いました。歳三さんこそ、私が探し求めていた御方なんだと」
「……では、朱里。引き続き、私の仲間として共に参ると申すのだな?」
「はい!……あの、お願いがあるのですが」
「何か?」
「ずっと、心に決めていた事があるんです。生涯をかけて、お仕えする御方をお呼びする時はこうしよう、と」
朱里は、真っ直ぐに私を見据えた。
……何やら、良からぬ予感がするのだが。
「歳三さんの事……。ご、ご主人様と呼ばせて下さい!」
「……待て。どういう理屈だ、それは?」
「理屈なんてないんです。私の全てを賭けてお仕えする御方ですから、そう呼びたいと……ずっとずっと」
「しかし、朱里。それでは愛紗と被る事になるが?」
「いえ、大丈夫です。愛紗さんには、私から説明しますから」
「…………」
「あの……。駄目、でしょうか?」
朱里は眼を潤ませる。
……これでは、私が朱里を苛めているようにしか見えぬではないか。
「歳三さん。朱里ちゃんのお願い、聞き届けてあげて下さい」
愛里まで、朱里と同じ姿勢を取るとは。
突っぱねるのは簡単だが、結果を考えるとあまり良い選択とは思えぬ。
「……わかった。そこまで申すのなら、好きにせよ」
途端に、朱里の顔がパッと輝いた。
「ありがとうございます、ご主人様! エヘヘ」
「良かったね、朱里ちゃん」
「うん!」
こんなに喜色満面では、もはや取り消しも効かぬな。
……また、要らぬ誤解を生む原因とならねば良いのだが。
その夜。
元皓と嵐が、連れ立って姿を見せた。
「結論は出たか?」
「はい。……太守様、僕達、このまま冀州に残る事にしました」
「決して袁紹さんを心から信じた訳じゃないけどさ。……でも、高慢ちきだったあの人が、あそこまで低姿勢になるってのは、余程の覚悟だと思ってさ」
「そうか。……だが、それが良かろう」
確かに、二人を失うのは痛手だ。
嵐は指揮官としての適性があり、武官としても優れた人物。
元皓は文官に徹しているが、他の諸侯であれば軍師として迎えられてもおかしくない。
……だが、二人を連れて行く事は、即ち官吏を辞する事。
それを強いる事は出来ぬ。
「やはり、僕は冀州の人間です。この地の民の暮らしを守る事、それを捨てる事は出来そうになくって」
「おいらは、元皓が残るって言う以上……ほっとけないって奴かな?」
この二人を引き離すなど、それこそあり得ぬ事だ。
「ただ、旦那。一つだけ、言っておくぜ?」
「うむ、聞こう」
嵐は咳払いをすると、改まった口調で続けた。
「決めた以上、おいらも元皓も、精一杯やるつもりだ。……けど、袁紹さんが万が一、
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