5部分:第五章
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第五章
「それはじゃ」
「そうなのですか」
「とにかく今日は行くな」
このことを言うのだった。
「わかったな。決してじゃ」
「そうですか」
「行けば死ぬ」
こう言って疑わなかった。
「わかったな」
「ですか」
芳一に強く言ってであった。彼を寺に留まらせた。そしてその夜だった。
「芳一殿」
また彼を呼ぶあの声が来た。彼はいつもの様に廊下の縁に座っている。お経を書いた上から服を着てそのうえで座っているのだ。
「おられるか」
声が来た。しかしであった。
「むっ!?」
不意にその声が怪訝なものになった。
「これは一体」
それはさらにであった。
周りを見回す気配がした。そしてさらに言うのだった。
「おらんぞ、芳一殿」
彼を探す声だった。
「何処だ、何処におられる」
しかし彼には見えないのだった。お経のお陰なのは明らかだった。
死者、即ち鬼である彼には見えないのだ。だからであった。
声は次第に焦りが感じられた。そして止むを得ないといった調子で言うのだった。
「致し方ない」
芳一はその言葉を聞いてまずは安心した。
「一先去ろう」
こうしてその気配が消えた。芳一は本当にこれで終わったと思った。しかしであった。
何とすぐにまた気配が戻って来た。しかも一つではなかった。
「なっ、これは」
芳一はすぐに悟ったのだった。彼はただ引き返したのではない。家の者を全て連れて来たのだ。忽ちのうちに彼の前に夥しい気配が感じられた。
「何ということ、これは」
「芳一殿はです」
「ここにおられるのだな」
「この寺に」
「はい、そうです」
こうやり取りする声も聞こえてきた。
「この寺にです」
「左様か、しかし姿が見えん」
「気配はするというのに」
それをいぶかしむ彼等だった。
「では一体何処に」
「何処にいるというのだ」
「それがです」
あの声が申し訳なさそうに他の者達に告げていた。
「私にもそれが何とも」
「それは困る」
「芳一殿がおられないのでは」
「困る!?」
それを聞いてだった。芳一はあることを感じたのであった。
「困るというのか」
「そうだ、とにかくいないのではだ」
「あの語りが聞けないのでは」
「我等はいてもたってもいられぬ」
「そうだ、この世に留まるせめてもの慰めだったというのにだ」
芳一は話を聞いているうちにわかったのだった。彼等は決して芳一に取り憑いているわけではなかったのだ。ただその話を聞いているだけだったのだ。
それがわかった。そうしてだった。
「そうだったのか」
「あれを聞いて慰めとし」
「何時かこの世への未練をなくし」
「去りたかったのだが」
それが彼等の心だったのだ。芳一は意識せずにそれを聞い
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