第一部
第六章 〜交州牧篇〜
六十六 〜冀州にて〜
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「……霞、来た」
「ほう。流石に早いな」
ギョウへ向かう最中、恋が霞の気配に気付いた。
私は馬を止め、隣にいた斗誌に声をかける。
「斗誌。済まぬが先へ行ってくれ」
「どうかしましたか、歳三さん?」
「一人、此処で合流する事になっているのだ。恋と二人、後から追う故」
「わかりました」
そのまま一人で待っていても問題はないのだが、
「……兄ぃ、一人にしちゃ駄目って、愛紗から言われてる」
その言葉通り、恋はずっと、私から離れようとせぬ。
警護役としてはこれ以上心強い存在はいないのは確かだが……それにしても、天下の飛将軍を警護にするとは、何とも贅沢な事だ。
程なく、彼方で砂塵が巻き上がる。
確かめるまでもない、霞が駆けてきた。
「おーい。歳っちー!」
私も、手を挙げてそれに応える。
ぶんぶんと手を振りながら、迫ってくる霞。
「歳っち! 待っててくれたんか?」
「約定を破るのは私の主義ではないからな」
「へへー、嬉しい事言うなあ、ホンマ。恋もありがとな」
「……恋は、ただ兄ぃを守っているだけ。気にしなくていい」
「せやったな。ほな、行こか」
笑いながら話す霞だが、その額には汗が滲んでいる。
そして、馬は明らかに苦しげである。
よほど、駆けさせてきたのであろうな。
「霞。まずは、その汗を拭うが良い」
「え? こないなもん、汗かいたうちに入らへんよ?」
「馬鹿を申せ。馬の息も上がっている、そのままでは馬も潰れてしまうぞ」
恋は黙って霞に近づき、彼女を馬上から下ろした。
「ちょ、恋? 何すんねん」
「……恋も、兄ぃに賛成。そのままじゃ、霞も馬も、かわいそう」
一緒に残っていた兵に、霞の馬を見るように伝え、当人は最寄りの小川に連れて行く。
上手い具合に小さな林になっていて、周囲からは見えぬ場所だ。
「風呂と言う訳にはいかぬが、ここで汗を流せ。私は、離れた場所に居る」
「済まん。けどな、歳っち。出来たら……そこに居て欲しいねん」
「……しかし」
「頼む。今更、歳っちにウチの裸見せるんは構わへん。せやけど、他の男に万が一見られたら嫌や」
「……私に見張りをせよ、と申すか」
「まぁ、そうなってまうか。ほな、一緒に入らへんか?」
「いや、止めておこう」
流石に、兵らも近くに居る手前、そのような真似は出来ぬ。
尤も、人目がなくともそこまでするつもりはないが、な。
「いけずやな〜、歳っちは」
「何とでも申すが良い。恋、向こうを頼む」
「……ん」
本人はああ申しているが、だからと言ってうら若き女子の裸を白昼堂々と見るつもりはない。
私は背を向け、衣擦れの音だけを耳にした。
……これでも出歯亀に及ぶ輩がいるとすれば、相当な命知らずであろう。
むしろ、そこま
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