第一部
第六章 〜交州牧篇〜
六十六 〜冀州にて〜
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「お陰様で、別世界でございますよ。御覧の通り、働き手も戻り、飢えに苦しむ事も減りましてな」
事実、そうなのであろう。
老爺もそうだが、村人達の血色は見たところ悪くない。
そして、眼には絶望や諦めといった物は感じられぬ。
……洛陽の有様を目の当たりにしてきた事も大きいのであろうな。
「それは何より。だが、決して私一人で成し遂げた事ではないぞ」
「然様ですな。土方様の許におられる、文武に優れた方々。そして、若手の文官、それに兵士の皆様。皆様の頑張りがあってこそ、でしょう」
「それだけではない。ギョウを中心に、庶人も皆、力添えをしてくれた。それなくば、今の魏郡はあるまい」
「ですが、土方様が道を示し、行動した事がきっかけなのは確かですぞ。謙遜は結構ですが、行き過ぎはいけませぬぞ」
「……ならばご老人の言葉、庶人を代表しての礼。そう思い、受け取らせて貰おう」
「はい。そして今一つ、お願いがございましてな」
その言葉に、私は麗羽を見る。
「これ、麗羽。いい加減、戻って参れ」
「……はっ。お、お師様? わたくし、一体……」
全く、此処が戦場であったなら如何するつもりか。
「ご老人。私は既に、この地とは関われぬ身だ。願いの儀は、袁紹殿に申されよ」
「いえ、袁紹様ではなく、土方様に聞いていただきたいのです」
「……ふむ。麗羽、良いか?」
「はい。お師様のお心のままに」
「ご老人、聞くだけ聞くが、内容如何では聞き届けられぬ。それはおわかりであろうな?」
老爺は頷いて、
「土方様は、此度交州牧に任ぜられたとの事。まずは、お祝い申し上げますぞ」
「うむ」
「ですが、土方様の治政を、お人柄を慕う者も多うございます。遠くに去られる事は皆、惜しんでおります」
「…………」
「中には、交州に参りたいと申す者もおります」
この時代、戸籍制度が存在し、形式上はそれを朝廷が管理している事になっている。
だが、中央ですら統制し切れていない今の朝廷に、正確に戸籍を把握出来ている筈もない。
ましてや近年、黄巾党の乱や飢饉、天災が続き、多くの庶人が逃散していると聞く。
無論、徴兵や租税の取り立てに支障を来す為、発覚すれば罪に問われる。
とは申せ、そこまで戸籍の管理を徹底出来ている地は、殆どあるまい。
あの華琳ですら、自身の支配が十分に及ばぬ郡や県では、把握に苦労しているらしい。
「ご老人。それは、この村の総意。そう受け取って良いか?」
「いえ。この辺りの村や里は無論、県ぐるみでもそのような動きがあると聞き及んでいますな」
……つまり、かなりの規模、という事か。
そうなれば、十人や百人という訳にはいくまい。
「州牧の袁紹殿を前にそこまで話すとは、覚悟の上なのだな?」
「はい。この皺首一つ、いつでも
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