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メフィストの杖〜願叶師・鈴野夜雄弥
第二話
Y
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言葉が、結局彼の「この世界」での最期の言葉となった。
「よく分かった。」
 そうロレは囁く様に言うと、両手を広げて蒼白い焔を一際強くした。
 すると、その中に何かの影が見えた…。
「我を呼ぶは…お前か?」
 その影はロレに問う。ロレは直ぐ様その影へと「そうだ。」と返すや、次いでこう言った。
「汝、この穢れし魂をこの世界より持ち去れ。」
「承知した。」
 影は直ぐに了承するや、空間に裂け目を開けて久保にその手を伸ばした。
「…!!」
 久保は最早声を出すことも動くことも儘ならない。あまりの恐怖に体が硬化してしまったのだ。
 有り得ない…だが、それは現実として眼前に広がる。
 夢…違う。これは夢でも幻でもないのだ。夢であれば、もう疾うに覚めている筈なのだから…。
 久保の目には、それが司の姿として見えていた。死して腐り堕ちる彼の姿は、久保には地獄の亡者に見えていたのかも知れない。
 彼はその間に気絶も出来ず、その目から涙が止めどなく溢れ、失禁さえしていた。
 久保は発狂しそうだった。己の犯した罪の重さなぞ彼には感じる術もなかったが、その恐怖は少なくとも、久保を苦しめるには充分な効果があった。
 恐怖で動かぬ久保に、影の手が触れようとした時、影は一気に膨らんで久保を鷲掴みにするや…そのまま久保ごと消え去ったのだった…。
「文字通り…地獄だよ。楽しみたまえ…久保。」
 そう言うロレの笑みは、正に悪魔そのものだった。
「気は済んだか?」
 メフィストは全てが終わった真っ暗な部屋の中、鈴野夜に問い掛けた。それに対し、鈴野夜は涙を零しながら言った。
「気なんて…済む訳がない…。司は…もう帰ってこないんだから…。」
 そう言う鈴野夜を、メフィストは優しく抱いて言った。
「司は…こんなに思われて幸せじゃないか。きっと、天にあるあの御方も分かって下さる。」
「そうかな…。あいつは悪魔と契約していた。だったら…」
「いいや、それでも…それでも、俺達は願うことを諦めちゃならないだろ?」
 メフィストはそう言って腕に力を込めた。少しでも鈴野夜の…ロレの悲しみが癒えるよう…そう願いつつ…。




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