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鏡の美女
4部分:第四章
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第四章

「鏡の世界ですから」
「左右対称になっていますね」
「その通りです。全てが逆になっている世界なのです」
「それが鏡の世界ですか」
「そう、そして」
 彼はさらに言ってきた。
「それと共に全てが同じ世界なのです」
「逆でありながら同じ」
「それが鏡の世界です」
 そうだと話すのであった。
「そしてです」
「そしてですか」
「彼等から見て私達も同じです」
「鏡の世界になるのですね、私達が」
「私達の世界と彼等の世界はそれぞれ鏡映しになった逆の世界」
 伯爵の説明は続く。
「ですから」
「ではここにも私が?」
「はい、おられます」
 夫人もこの世界にいるというのだ。
「こちらの世界の貴女がです」
「そうなのですか」
「それにあの奥方ですが」
 今度は鏡の世界から見えたその美女についても話した。
「見覚えはありませんか?」
「あの美女にですか」
「そうです。あると思いますが」
「そういえば」
 夫人はその整った顔に少し憂いにも見える考えを及ばせて述べた。言われてみれば確かに彼女にもはっきりと見覚えのある顔であった。
「モンフェラート伯爵夫人ですね」
「そうです、あの方です」
「あの方だったのですか」
「はい。そしてです」
「そして」
「私もいます」
 伯爵は自分もだと話した。
「この世界にです」
「貴方もですか」
「そして同じことを考え同じ王から同じ御言葉を頂いています」
 微笑みながらの言葉だった。そうだというのだ。
「ですから」
「ですから」
「話はそれで終わります。おられますね」
「はい」
 伯爵の言葉に伯爵の言葉で返って来た。
「来られる頃だと思っていました」
「左様ですか」
「はじめまして」
 二人のところに来たのは彼だった。紛れもなく彼が来てだ。そのうえで挨拶をしてきたのだ。
 それは紛れもなく伯爵である。しかしやはり服が逆になっている。ボタンの向きでそれがわかる。何もかもが逆になっている彼がやって来たのである。
「もう一人の私」
「どうも、もう一人の私」
 こちら側の世界の伯爵も微笑んで言葉を返したのであった。
「今回はです。どうやら」
「そうですね。世界の結界が弱まっています」
「どうやら」
 二人で言い合うのであった。
「それでは。今より」
「はい、今より」
「世界を正しく分けましょう」
「それでは」
 こう自分達で話してそのうえで決めてだ。二人で夫人に顔を向けてきた。まずは鏡の世界にいる伯爵が彼女に対して微笑んで述べてきた。
「はじめまして、こちら側の奥様」
「え、ええ」
 女だてらと呼ばれる程肝が据わっている彼女であるが今度ばかりは何と言っていいかわからなかった。それで戸惑いながら言葉を返したのだ。

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