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至誠一貫
第一部
第五章 〜再上洛〜
六十五 〜再会、そして出立〜
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何だ?」
「争乱は、まだ収まらぬでしょう。そして、その為に民草がまた苦しむであろうという事です」
 愛紗は、沈痛な面持ちで話す。
「ご主人様の国では、ここまで庶人は虐げられていたのですか?」
「……いや。確かに飢饉もあった、疫病や天災も幾度となく起こってはいた。だが、大規模な盗賊集団が村を壊滅させるなど稀であったな。上に立つ者が常に正しき道を歩んだ訳ではないが、今少し秩序は保たれていた」
「……そうですか。私個人は正しくあろうと常に心掛けてはいますが……」
 と、愛紗は周囲を見回す。
「やはり、希望の持てない世は糺さなくてはなりませんね。あの子供らが、ずっと笑顔でいられるように」
 大人は精気に乏しくとも、子供は元気よく走り回っている。
「お母さん、早く早くー」
「待ちなさい、璃々」
 ……ふと、雑踏の中、聞き覚えのある声がした。
 幼女の後を追いかけてきた、妙齢の女。
 間違いない、黄忠だな。
 ……ではあの幼女は、黄忠の娘か。
「ご主人様? 如何なされました?」
「……いや、何でもない」
 過日の一件では、やむを得ずとは申せ、置き去りにした格好となった。
 しかも、偽名を名乗ったのだ。
「愛紗。こっちだ」
「え? ご、ご主人様?」
 訳もわからず、目を白黒させる愛紗の手を引き、路地裏へと入り込む。
 ……だが、間が悪いとはこの事か。
「お、歳三じゃねえか」
 ばったりと、睡蓮(孫堅)に出くわしてしまう。
「聞いたぜ、交州だってな。ま、歳三が隣ってのは俺は嬉しいがな」
「う、うむ」
「それで、急いで何処に行くんだ? 昼間から関羽と逢瀬か?」
 途端に、愛紗の顔が朱に染まる。
「そ、孫堅殿! 人をからかうのはお止しなされ!」
 ……愛紗の声はよく通る。
 当然、周囲の耳目を集める事となる。
「あら? あなた様は確か……」
 睡蓮と愛紗は訳がわからぬ、というように顔を見合わせる。
「ふふ、やっとお会い出来ましたわね」
 黄忠は、意味ありげな笑みを浮かべた。
 ……事此処に至っては、やむを得まいな。


 睡蓮と黄忠を伴い、政庁へと戻った。
 ちなみに睡蓮は、単身市場を見て歩いていたとの事だ。
 無論、本当に単身だった訳ではなく、歩き出して程なく、祭(黄蓋)と明命(周泰)が合流した。
 そのまま中に入ったが、愛紗は出立の準備をすると言い、席を外した。
 応接する部屋など用意していなかった故、皆を執務室に案内する。
 ……尤も、着任して何もせぬまま。
 部屋の中には机と椅子、多少の書物がある程度だ。
 まず、私は黄忠に、偽名を名乗った詫びた。
「あの時はやむを得ずとは申せ、黄忠殿を謀る事をしてしまった。この通りだ」
「いえ、事情がおありだったのでしょう。頭を上げて下さい
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