第十五章 忘却の夢迷宮
第一話 定まらぬ未来
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と大きく軋みを上げたベッドが床の上を滑って壁にぶつかる。ベッドが壁に当たった衝撃で、ベッドの上に俯せになっていたタバサの身体がゴロリと一回転し、仰向けになったタバサの視界に木目調の天井が映った。
―――苦しい。
全力疾走した直後のように荒い息を吐きながら、タバサは刃物でも突き立てられたかのような痛みを感じる胸を両手で強く押さえ込む。
―――何で、こんなに、胸が……苦しい……。
魔法による痛みは知っている。
刃物による痛みも知っている。
悪意の言葉による痛みも知っている。
孤独の苦しみも知っている。
わたしは様々な痛みを―――苦しみを知っている。
そして、わたしはそれに慣れている。
慣れて、耐える事が出来る。
その筈、だった―――でも。
この痛みは―――苦しみは、知らない―――だから、耐えられない。
鼻の奥にツンっとした痛みが走り、目の奥が熱く潤む。
それが何なのか分かった時には、既にそれは溢れていた。
熱い、熱い水が、瞳から溢れ出し零れ落ちる。
動悸と連動して強くなる胸の痛みを感じながら、胸を抑えていた両手をそっと離す。
両手で頬を包み込むと、冷え切った指先が熱い何かで濡れた。
「―――なみ、だ?」
触れて、始めて自分が泣いているのだと気付く。
ベッドから起き上がったタバサは、眼鏡を外すと袖口で目元を拭う。
「っ、何で……」
―――理由は、何となく分かっている。
不安、なのだろう。
彼が、何処かへ行ってしまうかもしれないと感じて……。
彼女―――遠坂凛を……タバサは知っている。
時折見る夢。
彼がわたしを愛してくれた夜に見る……泡沫の夢。
ここではない世界。
月が一つだけのあの世界で、わたしは見た。
彼の過去を。
彼が背負った罪を。
彼の嘆きを。
その中で、わたしは見た。
彼が、彼女に笑いかける姿を。
彼が、彼女をどれだけ大切にしているかを。
断片的な光景でも分かる、その気持ちを。
わたしだけじゃない、キュルケも、ルイズとも比べられないほどの時間を、彼女は彼と過ごしてきた。
だからこそ、怖い。
彼が、彼女と共に何処かへいなくなってしまう気がして。
手の届かない。
二度と会えない場所へ連れて行かれそうで。
彼がルイズと一緒にいる姿を見たときに感じる苦しみを、何十倍にもした痛みが胸を襲う。
それでも、普段なら、耐えられただろう。
何時もなら、抑える事ができた筈だった。
しかし、今は、駄目だ。
駄目なのだ。
タイミングが悪すぎた。
状況が最悪だった。
ここは学院ではなくて、父の仇と目と鼻の先に
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