第十五章 忘却の夢迷宮
第一話 定まらぬ未来
[12/12]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
だからこそ、自分は仇を―――父を、|自分〈シャルロット〉を殺し、母を狂わせた男に―――。
「復讐だけが、あなたの未来ではありません」
「―――ぁ」
セイバーへ向ける筈だった言葉が、力なく零れ落ちた。
穏やか、とも呼べる優しげな目をしたセイバーが、一歩、タバサに歩み寄る。
言葉に含まれていたのが批難なら、無視できた。
―――怒りなら、反発することができた。
―――悲しみなら、耐える事ができた。
……でも、優しさは、どうすればいいか、分からない。
「っ」
逃げるように、タバサはセイバーから離れるように身体をずらす。
「タバサ。もう一度言います。過去は変えられません。しかし、未来は変えることが出来ます」
「……」
反発の声は、上がらなかった。
ただ、揺れる瞳で、セイバーを見上げるだけ。
暫く、二人の間に沈黙が満ちた。
そして、
「復讐は止めろ、と……そういうこと?」
最初に沈黙を破ったのは、タバサであった。
その声には、不満や苛立ち、怒り等が多分に含まれていた。
仮に、タバサの言葉にセイバーが頷けば、二人の間に決定的な溝が生まれていただろう。
しかし―――
「違います」
「―――ぇ?」
そうはならなかった。
気の抜けた、幼いともいえる呆けた声をタバサが上げると、セイバーは小さく口元に笑みの形を取り顔を俯かせた。
その時セイバーが浮かべた笑みは、タバサの漏らした呆けた笑みに向けた微笑ましいものではなく。決して忘れることのできない自分の|過去〈罪〉を思い出したことからの自嘲の笑みであった。
「私にそれを言う資格はありません。ただ、私があなたに伝えたかったのは―――」
「……ぁ」
伸ばされる手。
優しげな笑みと暖かな眼差し。
頬に触れた指先は、赤子を撫でるように柔らかく。
囁かれた言葉は、
「あなたは、一人ではありません」
とても、強かった。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ